下巻を読むまで評価は控えさせてもらいます
日本SF大賞を獲ったという本書ではあるが、SFの意味を単なるサイエンスフィクションと捉えていると、途中でこの本を投げ出すだろうと思う。かって「世界で一番美しい物語」という科学の概説書を読んだとき、私は「宇宙の始まりや未来の話、あるいは生物発生の秘密の話を聞けば聞くほど、哲学的なことを考えてしまうのはなぜだろう」という感想を持った。そういう感想を推し進めるとこういう作品が出来上がるのだろう。この作品は優れて「SF哲学」とでもいうべき本なのである。
この作品の主人公の「前身」として「肺を病む岩手の詩人」が出てくる。名前はついに明らかにはしてないがどう考えても「宮沢賢治」である。何しろ彼の詩や文章がほとんどそのまま引用されているのだから。ただ唯一違うのはこの詩人が「螺旋」に興味を持っているという設定である。その賢治に現代の「修羅」みたいな男をもう一人の「前身」として結びつける。そうすると、どういうことがおきるかというと、かって賢治が生前には出来なかった「殺生」「姦淫」などをこの主人公は行うことになる。その上で「自分は何者か」「人は幸せになれるのか」という「問い」を尋ねていくのである。私にはものすごい「冒険」に思える。まだ下巻は読んではいないが、いいかげんな「答」なら賢治ファンの私としては許すことが出来ない本になるだろうと思う。
人は幸せになれるのですか・・・?
密林でアメリカ兵に遭遇し、現地の男の子と女の子が討たれる瞬間を写真におさめようとして米兵に撃たれ、海馬に石片を残したままになった写真家が高層ビルの「螺旋」階段に吸い込まれ、岩手の詩人は北上高地の斜面に巨大なオーム貝の化石の「螺旋」に飲み込まれた。彼らは一人でありながら二人、二人でありながら一人の、混沌の中で二人分の修羅を持つ人間となって、見知らぬ世界に海から上がってくるところから物語が始まる。「縁(えん)であり、業(ごう)」である「アシュヴィン」という名の人間として。
アシュヴィンははるか上を、須弥山を目指す。仏教的な世界観でこの物語は進行していく。色は空であり、空は色であると。問いの中に答はあると。
陰陽師などから夢枕獏を知った人には、夢枕獏!にこのような一面があったとは、と驚くでしょう。獏自身、書き上げるのに10年かかったと言っている。それだけの本です。
うまくレビューが書けなくて申し訳ありません。
アシュヴィンの修羅は昇華するのか?人は幸せになれるのか?
まだ、下巻があります。消化するのが大変な本ですが、続けて下巻を読んで下さい。