社会背景が分からない3巻
この世界の法律や、行政のことが、どうにも分からない3巻です。少女殺しはやけに重罪(現実世界並に)として取り扱われ、法廷では真剣な攻防が行われる一方、「事件担当官」がしでかす大量破壊・大量殺人・それらの教唆は一切不問に付され、何が罪で、何が正当行為なのか、ついに判断できませんでした。
法務局所属のハンプティ・ダンプティに銃撃しておいて、まったく罪に問われない彼らが、ああまで法廷闘争を恐れて立ち回るのは、何故なのでしょう。
また、禁断の科学技術を独占している割には、そうした対抗措置を持ち得ない現実の悪人のように行政に怯える様が滑稽です。1巻のときに感じた「SFとしての不完全性」を、この3巻でも、特に背景社会への溶け込めなさに感じ、わざと目を瞑って単純なアクション物として楽しむのが精一杯でした。2巻のエンターテイメント性が光るだけに、残念です。
トリロジーの完結巻
第24回日本SF大賞を受賞した『マルドゥック・スクランブル』のラスト、3巻。トリロジーも終わってしまうか、と思ったらやや名残惜しいものはあるが。長さを感じさせない。それほど重くないのがやはりいただけるか、あとはキャラクターとストーリーの構築。 カジノでの本当の目的を実行するために。最後はブラックジャック。相手はウフコックすら様子が読めない、最強のディーラー。殆ど心理戦。技術と言うよりは気持ち。そしてボイルドと決着をつけるために、再びバロットは銃を握る。
ライトノベルらしいのかそんなに重くはないし、新キャラ旧キャラ含めキャラクターが相変わらず生き生きしている。アシュレイはようやくと言って出てきたようなタイプかもしれないが。完全無欠というわけではないヒロインのバロットやウフコックもまた面白い。バロットとウフコックのパートナーは凄い。
最後のブラックジャックは息詰まる攻防、というのもあるがどのようにストーリーが流れていくのかという緊張感が常に漂う。スピーディーだけにじっくり読んでいけばかなり楽しめるんじゃないか。ブラックジャックだけでなくルーレットやポーカーなどのカジノシーンだけでもなかなかのボリューム。戦闘での生死を分ける緊張感ではなく、常に複数の敵を意識する。誰が何を考えているのか。どう攻めるかは戦闘と同じようだが複数であることが随分違う。
バロットにさほどの感情移入というのもできないが、敢えてそうさせないところも面白いんだろう。個人的に何だが。この世界観によく合う。シェルやボイルドとは全く違うがオーラだけは似ているんじゃないか。SFだがリアルに。スピーディーに。あくまでもバロット生き残るための戦い。
ストーリーに深みはそれほどないが、あっさりしすぎる事なく1800枚をシーンでの移り変わりで淀みながら読ませてくれたというのが率直な感想。敢えてストーリーとしての幅を広げるのではなく、バロットの復讐劇を軸とした彼女のサクセスストーリーであると共にシェルのストーリーでもある所が一つの面白味でもある。甘くはない世界。汚い世界。
続編の『マルドゥック・ヴェロシティ』ものんびり待っていよう。