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ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

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ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)の商品レビュー

5.0 二面性を映し出す
本書は大まかに言って2つの異なる側面を持つ。

1つは当時明らかになりつつあったカンブリア生物たちの「スゴさ」を一般の読者にも教えたいというグールドの情熱。当時の知的興奮がひしひしと伝わってくるほど、人物とカンブリア生物が躍動的に描かれている。科学史家、サイエンスライターとしてのグールドの力量を見せつけられる思いがする。

もう一つは、科学界ではウケが悪かった断続平衡説に関連する独特の進化観を、一般大衆に広めたいという科学政治的な思惑。他のレビューの補足をすると、多様性は「存在するバリエーションの数」であり、異質性とは「存在するバリエーションの幅」のこと。グールドはカンブリア紀の異質性が現代より大きかったと主張し、異質性を増大させるような特殊な進化のプロセスがあったのだと仄めかす。でも異質性が大きいっていうのは主観じゃないの?と、現代の子孫(例えば無脊椎動物と脊椎動物)のボディプランが大幅に違うからと言って分岐した当時から大幅に違ったはずだと仮定する根拠はあるの?と言う異議がある。この根拠不十分という指摘はもっともで、グールドが厳しく批判していた「なぜなぜ話」に自ら陥っていたように思われる。

本書を支える理論的な基盤は根拠が非常に弱いのだが、その点にだけ注意すれば、どんな読者でも生き生きとした情景描写と人間模様を楽しめるし、グールドの思想に興味があれば二重に楽しめる。断続平衡説の理論的な妥当性に関してキム・ステルレニー『ドーキンス VS グールド (ちくま学芸文庫)』が比較的中立な立場からレビューしているのであわせて読むと良いでしょう。
5.0 科学の本当の面白さは細部に宿る
間違いなく名著。カナダにあるバージェス頁岩で発見された、およそ5億年前の生物の化石について。その発見や解明の経緯、そしてその生物たちが持つ、進化論への大きな意義を語る。バージェス頁岩で発見された生物たちは実に奇妙である。それは見た目にもそうだが、系統学的にも奇妙だ。まずそんな生物たちを見るだけでも面白い。地球外生命体みたいである。しかしそれ以上に面白いのは、そんな奇妙な生物たちを系統学的に位置づけようとして混乱、間違い、奮闘した科学者たちの姿である。

「神は細部に宿る」とはライプニッツの言葉だが、本書はまさにそれを実感できる。著者もそれを伝えるように、かなり研究の細部に渡って記述をしている。人によってはそれは冗長に感じられるだろう。もっと大筋を、もっと抽象的な話を、もっと日常生活に近い話を、と思うかもしれない。だがそれは違う。科学の面白さは、細部に宿る。専門用語を駆使した論文の中に示される、一つの結論。それが面白いのである。これは科学の研究に携わった人間なら、実感できるだろう。

グールドの素晴らしいところは、そのような研究の細部を一般向けに語れるところである。生物学の専門用語は最小限に抑えられている。にもかかわらず、専門的な論文の内容を解説していく。そしてその研究がどのような意味を持つのかを明らかにしていくのである。

本書は古生物学の本である。しかしまた、科学哲学の本としても読める。つまり、科学者はどのように研究を行うのか。科学的「発見」はどう行われるのか。本人の科学観が、その研究にどのような影響を及ぼすのか。バージェス頁岩の生物たちを最初に解明したウォルコット。彼がそれら生物たちを既存の分類に強引に押し込んでしまったのはなぜか。彼の人となり、社会情勢を合わせて極めて詳細に語られている。また、ウォルコットの仕事を見直し、バージェス頁岩の生物たちを現代では絶滅してしまった、まったく新しい分類としたウィッティントンとコンウェイ・モリスらは、なぜに新しい発見に導かれたのか。その発想の背後が描かれるのである。これは、グールド自ら現場の古生物学者であるからこそ成せることである。

グールド本人の本書の目的は、生物進化の見方を提起することである。進化は、現代に生きている生物たちへ向かって徐々に多様性を増すように起こってきたのではない。バージェス頁岩の化石が示すのは、5億年ほど前のカンブリア紀は、今よりも遙かに多様な生物が生きていたこと。現代は、昔の生物多様性が失われた結果なのだ。そしてまた、この多様性の消滅は偶然のものである。つまり、人間を含めて現代の生物がいまあるようにあるのは、偶然であると。歴史がもう一度5億年前に戻ったなら、そこから例えば人間が現れることはまったく保証されていない、と。

グールドの見解の妥当性はともかくとしよう(様々な論争がある)。本書の価値は、その見解の説得性に限定されるものではない。本書がもつ価値はなによりも、現場の科学者が、自分の研究分野を詳細に渡って分かりやすく提示し、それによって科学の本当の面白さを伝えていることなのである。これは科学ジャーナリズムには難しいことである。グールドも、そのことを何度か強調している。

まさに本書の述べる通り、科学の面白さは細部に宿る。しかしこのことを自覚して、さらに一般向けに伝えられる科学者はごくわずかである。たいがいは自分の研究の意義をセンセーショナルに書き立てるか、あるいは生半可な思想・哲学になってしまうか。はたまた突然、社会評論になってしまったりする。このグールドの試みは、とても地味で煩雑な記述に思われるかもしれない。だがしかしそれが科学なのであり、貴重な試みなのである。
5.0 ハルキゲニア逆さまやん
という突っ込みもあるだろう。
ピカイアは最初の脊索動物でもマイノリティーでもなかったし・・・
という突っ込みもあるだろう。
遺伝子解析の観点に乏しい。
という指摘もあるだろう。
が、やはりこれが名著だといえるのは
「細部にこそ神は宿る」
という信念が、豊富な図版、ウォルコット人物像の描写・歴史的考察
などなどの細かな例につぶさに現れており、バージェス頁岩を多角度から
そして事実に基づいて考えることを読者に提供することのできる恐らく唯一の書だからである。
最初にあげたように情報が遅れていたり(’93年出版だからしょうがないが)、
若干「悲運多数死」というグールド独自の進化論がうるさいきらいがあるが、
入門書としては、成功した優れた書だと思う。
4.0 知的興奮
 「一体なぜ現存する動物種が生き残ったのか」
 進化論とえばダーウィンの説が一般的に採用されている現代だが、
僕にはどうにも腑に落ちない。
生命の神秘を説明しきれていないように思うのである。

 本書中に出てくる生物群は、僕の疑問をいや増す。実に不思議な形態の生物達である。
今はかなり有名になった、ハルキゲニアやアノマロカリスだが、最初に読んだ時はとにかく
その形態の異様さに驚いた。

 作者の進化論も語られる。それも興味深い。しかし進化にはもっと秘密が有りそうだ。
きっと人知の及ばない・・・。
本書の文面は少し面倒というか、研究者らしい文章で読みづらい点もあることは否めない。
しかして進化論について興味が有る人なら、バージェス頁岩は避けて通れない事柄。
ぜひ読んで、独自の進化論を空想してほしい。
5.0 テープを100万回リプレイしても、人類が再び進化することはない
進化論には学生時分から興味があって、
いまだに気が向くと適当につまみ読みしている。

著者のグールドは修正ダーウィン主義の立場をとる古生物学者。
こちこちのネオダーウィニストであるドーキンスとならんで、
現代の進化論上、絶対にはずせない論客のひとりである。

約5億年前(=カンブリア紀)の地層から、奇妙な形をした動物が大量に発見された。
これを発掘現場の地名をとって「バージェス動物群」という。
本書は、

・バージェス動物群の発見者であるウォルコットの伝記
・バージェス動物群の分類学上の検討
・ダーウィン流の自然淘汰では説明できないバージェス動物群の進化上の解釈

からなる。
バージェス動物群の不思議は2点。

・なぜ、このカンブリア紀にこれほど大量の種が一度に出現したのか
・そのなかから生き残った4種は「自然淘汰」の結果なのか

という点である。
グールドは自然淘汰(=必然)の結果ではなく、偶発であるとする。

 「バージェスを起点にして、テープを100万回リプレイさせたところで、
  ホモ・サピエンスのような生物が再び進化することはないだろう。」p502

という。
すなわち、生き残った生物は他に比べて何かが優れていたわけではなく、
たまたま運がよかったにすぎない、という立場をとる。

進化論を読んでいると、科学なのか哲学なのか宗教なのか、
なんだかよくわからなくなってしまうが、しかし、その議論はとてもおもしろい。
名著といわれるだけの価値はある。

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