なぜ、そんなに早く、事件関係者を列車から降ろしてしまったの?
ポアロものの第5長編。寝台列車「ブルー・トレイン」で起きた殺人事件と、「火の心臓」と呼ばれるルビー盗難とをからめた話。ミステリの器の中に、スパイ・スリラーっぽい話が盛り込まれている。初読ということもあり、期待して読んでいったのだけれど……。いい出来栄えの作品とは思えなかった。作品のどこに出来の悪さを感じたのか、考えを整理してみるつもりで箇条書きにしてみた。
○登場人物の性格が平板である。性格描写としての踏み込みが足りない。ぶっちゃけて言えば、キャラクターの魅力が薄い。
○殺人現場の「ブルー・トレイン」から登場人物たちが早々と降りてしまうため、列車内という舞台設定が生きていない。
○スパイ・スリラーの冒険的要素が、話をかえって散漫なものにしてしまった印象を受ける。どっちつかずというか、中途半端というか、作品のキレを鈍くしてしまった感あり。
○そして、これが一番気になったのだが、最後に事件の真相と犯人が明かされる件りに説得力がなかった。犯人に行き着く推理は、かなり都合が良すぎるのではないかと思った。推理に無理があるということではなく、正解に至る道すじそれ自体の魅力が乏しかった。
逆に面白いと思ったこと、評価できると思ったことは、次の二点。
○舞台のひとつとして、セント・メアリ・ミード村が出てきたこと。
○新訳の青木久惠さんの訳文が、とても読みやすかった。しかし、このクリスティー文庫刊行にあたって、新訳になっている作品があるかと思えば、旧訳のままだったりするのはなんで? 個人的な希望を言わせてもらうと、すべて新訳で読みたかった。