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春にして君を離れ (クリスティー文庫)

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春にして君を離れ (クリスティー文庫)の商品レビュー

5.0 ロマンチックではないけれど
過去のある部分をふと思い返しては何かに気づき、ふと現実に戻り、また別の時を振りかえっては新しい何かに気づく。その真実に近づいていく過程が巧いです。

主人公は自己中心的で身勝手、前向きすぎな人物。
けれども反省するシーンがあるからか、私はそれほど嫌な人物だと思いませんでした。でも人を憐れんでいる所はさすがに嫌味でした。
問題は、いろいろな場面で人間関係が上手くいってないことを示すサインが出ているのに、見て見ぬ振りをしているところです。

しかし、砂漠で一人考え、今まで自分が得ている情報だけで「周りから見た自分」と「自分と周りの関係」、さらには「夫の秘密」にまで思い到ることができたのだから、本当は鈍くもなく、やろうと思えば客観的に物事が見れる人なんですね。
結局非日常の場所で考えた為に、日常の場所に戻った時にああなってしまったのは残念です。
でもほんの少しは変わっていてほしい。

ジョーンは気づいていないようですが、実は夫は優しくなどはなく卑怯で嫌な人間だと思いました。唯々諾々といいなりになるばかりで、一番身近な人物なのにきちんと向き合わないまま二十数年。
心のなかでは主人公を疎んで憐れんでいるのだから、これは優しく妻を受け入れているのとは違うでしょう。でもこの二人は似た者どうしなのかも。
5.0 夫婦や親子でも擦れ違いが生ずる人間の不思議さ、危うさを痛感させられる
この作品(『春にして君を離れ』)は、作者アガサ・クリスティーの実体験に基づいた告白小説なのではないか?三十代半ばを過ぎて離婚を経験した作者が、ミステリー作家として成功しながら、五十歳を過ぎて夫婦や家族に纏わる問題に悩んだ半生を顧みて心理ミステリーに手を染めたとしても不思議はない。

お馴染みの名探偵(ポアロやミス・マープル)が登場せず、謎めいた殺人事件も起こらない内省的な人間関係ミステリーにも関わらず、読者の混乱を慮ってわざわざ違う筆名(メアリー・ウェストマコット名義)で発表するという周到さも手伝って、却ってミステリー仕立ての恋愛小説として第一級の心理サスペンスの面白さで読者を圧倒する。

砂漠の駅で足止めを喰らった中年女性スカダモア夫人が奇しくも向き合うことになったのは、「こうあって欲しいと思うようなことを信じて、真実に直面する苦しみを避ける方が、ずっと楽だった」自分自身であった。

予期せず再会した女学校時代の友人の落魄ぶりに優越感混じりの憐憫しか感じなかった己の浅墓さ。遠い異国の地で末娘が病気に罹ったのも母親である自分の愛情の欠如が原因だった。話し相手のいない孤独な静寂さの中で、スカダモア夫人ジョーンは見栄っ張りな自分の愚かさを噛み締め、家族に対する無理解、現実逃避の生き方を思い知らされる。

誰もが主人公ジョーンのように、自分に都合よく解釈しながら人生を生きているのかも知れない。だから、本作はそん所そこらのミステリー小説よりも恐ろしく怖い。推理小説の殺人犯ならば特別な利益や怨恨、愛憎の動機を持った人物に絞り込まれるだろうが、本作では万人に代替が利く人間存在そのものを根源的に問うているため、哀しみと恐怖の反芻が生半可では済まない。

成瀬巳喜男の「浮雲」で描かれた腐れ縁の男女の機微が判るようになり、小津安二郎の「東京物語」や黒澤明の「生きる」に身を詰まされる年齢になって本作のような凄い小説を読むと、夫婦や親子であっても擦れ違いが生ずる人間の不思議さ、危うさを痛感させられる。
5.0 今までのアガサクリステイの最高傑作
アガサの推理小説はポアロも、ミス・マープルもそれ以外も読んできた私だが、この作品は「怖い」殺人事件があるわけでない。しかし、子育ての終わった3人の子の母が5日間、砂漠のど真ん中の駅の宿舎で足止めを受けた偶然のために、明らかになっていく「恐るべき家族の虚像」愛とは何か?恐るべき勘違いではないか?平穏無事と思っていた人生がリアルタイムで「全然平穏無事」でなかったことが明らかになる。気が付いた夫人はイギリスに帰って、どうするか?長女に会い、夫に会う。砂漠で気づいた自分か?元の自分か?どっちを選んだのか?その結果、妻はどうなり、夫はどうなるのか?家族は?
最後の最後までハラハラで読みました。
砂漠での半ば自殺未遂のような放浪までした妻の取った最後の態度とは?

世の古今東西を問わず、普遍的な問題だったと思う。

臨場感があって「怖い」、そして極めて現代的な問題を扱っている。読んだものすべてが、何らかの感想を「持たざるを得ない作品」であるところがすごい。
アガサをただの推理小説作家を思っていた私が浅はかだった。

この作品に引き込まれていくのは「そして誰もいなくなった」以上だ。
読めばわかると思う。表紙の絵もなかなかいいと思う。
アガサの最高傑作だと思う。「アクロイド殺し」よりすごい作品だ。出あえてよかった。
5.0 ミステリーではない怖さ
ポアロやマープルのシリーズをある程度読んだ後に手にした作品でした。
ミステリーじゃないので迷ったのですが、思わせぶりなタイトルに惹かれ。
最初は波がなく退屈そのもので「失敗したなぁ」と思ったのですが、
半分を過ぎるあたりからは一気読みでした。
身近な筈の家族が、実は深く恐ろしい葛藤と欺瞞を生む温床になるとは…。
人間なので熱しも冷めもしますが、
その残酷さを実に美しく完璧な形で読まされた、という感じです。
“彼”の最後の言葉――凍りつきます。


5.0 他人に重ねて読んだが、実は私のことなのかも知れない
毒親の話。毒親が自分を見つける話。ときいて 
「それはさぞや胸がスカッとするだろう」
と読み始めました。

しかし、いやぁ、深い。

「親の価値観」を「あなたのため」だからと押し付けてくる親。
「ああ、いるよねー」「うちの親もこれあるある」と読んでいましたが

…これは、自分のことなのかもしれない。
今はそうではないかもしれないけれども将来そうなるかもしれないのでは
ないか?夫に、友人に、実はこんな迷惑をかけたりしてるのでは
ないか? 深く自省することを「うつっぽい」と表現し、そういった
自分にとっては気持ちよくないテーマから逃げていたことを反省した。

今はこの小説をまだ受け止めることができた。
でも10年後、20年後、いつか「この主人公がどうしてみんなに憐れまれているのか
わからないわ」と思うときが来るかもしれない。
その時、私は主人公と同じ状態になっているのだ。

自分の状態を判断するために、この本は本棚に入れておこう。
同じ本は2回読まないが、この本は何度も読みたい。いや、読みたくなくても
読まなくてはいけない、と思った。

子供はまだ小さいわ、とか 子供どころか独身ですけど?という
あなたももしかして「友達から」クスっと笑われてることがあるのかも
しれないですよ。怖い怖い話でした。

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