瀬戸際に立つ民主主義
現在、人々の政治に対する不信感は曾てない程まで強くなってきている。必然的に多額の資金を必要とする現行の選挙制度の下では、政治家は国民の声よりも巨大企業の意向に耳を傾けざるを得ない。その一方で巨大企業はグローバル化によって国家の枠組みを益々無視する様になり、利益を上げる為であれば人権や環境への配慮なぞ平気で踏みにじる。貧富の格差は拡大し、不平等感と絶望は広がる一方である。その暴走に唯一ブレーキをかけられるのは消費者である。ここ数年でグローバルな展開を見せつつある大規模な消費者運動(抗議行動)は、実際に幾つもの企業に対して自分達の主張を通すことに成功している。そこで企業の方ではイメージ戦略によるメリットを視野に入れ、労働条件等の改善をアピールするのみならず、教育や医療、はたまた外交にまで積極的に手を出す様になる。斯くして政府と企業との役割が入れ替わった、奇妙に転倒した構造が出来上がる。原題は"Silent Takeover 無言の乗っ取り"。民主主義の原則が巨大企業主導の資本主義の論理によって浸蝕されていく様が、豊富な事例を基に解説されている。その上で著者は、消費者運動の恣意性や、公共の行政サービスを企業が肩代わりすることに対して警鐘を鳴らし、政治に今一度民主主義を貫く力を、人々に消費者としてではなく有権者として行動するようにと訴えている。改革に至るまでの道のりの描写はやや駆け足で具体性を欠くが方向性は間違ってはおらず(と私は思う)、論旨は一貫して明快、一読に値する警世の書である。