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そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命

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そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命の商品レビュー

5.0 素晴らしい!パラダイム転換の時代を活写した最上のドキュメント!
古典物理学の実在観と因果律を破壊した量子的不確定性の正体はいったい何なのか!? 原子スペクトルのデータなどと格闘しながら量子力学を作り上げていく際にハイゼンベルクら若き物理学者たちがいかにして過去の物理学的伝統と縁を切る大胆な決断をなしえたのか。その一方、量子的不確定性を断じて原理的事実としては認めず単に量子力学の不完全性を意味するものにすぎないとするアインシュタインらの猛烈な抵抗。

本書で巧みな描写で描かれる量子力学の形成過程は、トマスクーンの『科学革命の構造』が自らのパラダイムシフト論の実例として頻繁に引証したものでもあり、なるほど旧パラダイムから新パラダイムへの転換がいかに激烈なまでの不協和音を生じさせるものかが本書を通じてより臨場感をともなって理解できるようになりました。『科学革命の構造』を読んだあとに本書を読むと前者の理解が深まりそうです。逆に、本書の読後に『構造』を読めば実感をもってクーンの科学史像を理解できるようになるでしょう。

ドキュメンタリーは登場人物の言葉に全てが凝縮されてますよね。古典物理学の大御所レイリー卿がボーアの原子論を聞いて「私には無意味だったよ。私の性には合わんのだ。」と述べたとされるエピソードやアインシュタインが晩年ハイゼンベルクに「君のやっている類の物理学が性に合わなくてね。」と語ったとされるエピソードに、パラダイム転換の時代に生じる新旧の軋みがいかに大きいものかが如実に語られているように思えます。

もちろん本書は『構造』とは何の関係もなく、あくまで量子的不確定性というものが自然の根底的原理なのか否かをめぐる知的葛藤のドラマを描いたものであり、そうした不確定性の思想の源流は実は熱力学にまで遡ることができるということ、それゆえ自然理解に対して不確定性は実はしだいにそれと気づかれることなく忍び込んできていたものであること、ハイゼンベルクの不確定性原理の発見はその明確な自覚に他ならなかったのだということ、以上が著者リンドリーの主張したい科学史像のようです。

熱の分子運動論のいう確率とコペンハーゲン解釈のいう確率は根本的に性格が違うわけですが、しかし、ともかくも確率的理解の登場によって決定論的世界像はしだいにほころび始めていったのであり、量子的不確定性の出現以前から物理学には決定論の崩壊の兆しはあったのだと。確率によってしかとらえられない物理過程があるという認識の出現と確立の歴史的展開の流れの延長上に量子力学の出現を見るべきなのだというわけですね。思想史的・問題史的に再構成された歴史像だとは思いますが、勉強になります。
5.0 壮大な戯曲
20世紀の物理学における最大の発見とも言われる「不確定性原理」。本書は、その深遠かつミクロな原理をテーマに、アインシュタイン、ボーア、ハイゼンベルクの三人の天才物理学者が織りなす壮大な戯曲だ。またこれは、常識的な人間の感覚からすれば魔法のようにも見える量子力学の解釈を巡って、時に苦しみ、時に歓喜する三人の主役たちの壮絶な知能戦が垣間見られる極上の知的エンターテイメントでもある。そして、主役の三人は言うに及ばず、脇役でさえシュレーディンガー、プランク、ディラック等、物理学界のビッグ・ネーム揃い。20世紀物理学の英知の物語がこの一冊に凝縮されているといっても過言ではない。

というかもう、表紙の写真からして超有名なアレ(第5回ソルヴェイ会議)だし。

ちなみに本書には、不確定性原理を鳥瞰し、物理学の深みに触れているにも関わらず、数式が一切出てこない。これは奇跡だ。少なくとも、物理は好きだが数字があまり得意ではない僕にとっては。もちろんそれは、世界最高の知的財産を一般人が理解できる形に敷衍しきった、著者の見事なまでの筆力があってのことだが。

世界はいかにして不確定になってしまったのか。

それを知りたい不確定な世界を生きるすべての人に。
5.0 温故知新
アインシュタインのみならず、量子力学の泰斗ですら、現在の標準的解釈(不確定性)を拒絶した量子力学の産みの苦しみ・・・
「早くから粒子は波動としての性質をもつに違いないという洞察に達していたド・ブロイは、その結果として一九二九年に当然のようにノーベル賞を手にするものの、
量子力学への重要な貢献はこの他には何もしていない。彼は生涯を通して、確率解釈は誤りだと主張しつづけた」
光の粒子性(光子)を拒否し、波動性に執着したボーアの姿勢(第八章)には、かつて親しんだ慎重さ(『ニールス・ボーア論文集』)が見られず、
"波動" を根源的なものと解釈したシュレーディンガーは、「ボルンが提示した波動の確率解釈」を拒否し、
「粒子は根底にある波動の現われ」であるとして、何と何と決定論に組していた・・・

「波動力学(シュレーディンガー)は姿を見せない量を理論で最優先すべき地位に押し上げており、
ハイゼンベルクは、これは量子力学を打ち立てる正しいやり方ではないと心の底から信じていた」
"隠れた変数(デイヴィッド・ボーム)" は「文字どおり隠されたまま」だからである。
「検知することのできない」"隠れた変数" を捨象し、「観測可能な要素――遷移する際の振動数と強度――に中心的役割を担わせ」たハイゼンベルクの慧眼が光る。

「ジャーナリストが、自身の見解が書いている記事に影響を与える場合があると認めるとき・・・
ハイゼンベルクの原理は遠い存在ではない。観測者は観測している対象を変化させてしまうのである。
文学理論の研究者が、テキストは多種多様な読み手の嗜好と先入観にしたがってさまざまな意味を与えると主張するとき、
その背後にはハイゼンベルクが潜んでいる。観測という行為によって、何を見て何を見ないかが決まってしまうからである。」
「決定論と因果律を退けて不確定性と確率を受け入れた」現代物理学・・・ モーリッツ・シュリックの解釈(p238)をオススメする。
4.0 理論物理学者達の生き様
量子力学が発達するその時代に焦点を当てて、物理学、いや、理論物理が最もエキサイティングだった時の理論物理学者達の相互の戦いを描いた物語だ。戦いだけではなく、師匠関係や信頼関係なんかも語られている。
ハイゼンベルグの画期的な物理理論を中心にして、ボーア、アインシュタイン、パウリ、シュレジンガー、いやいやそれ以上の素晴らしい物理学者達が登場人物だ。彼らの情熱や主張を数学を用いない文書で描いた秀逸な作品だと思う。

表紙は1927年の第5回ソルヴェー会議で、それこそ近代の名だたる物理学者達の写真がある。思わず、ネットで検索して、この写真の大きな解像度の物を本に挟みながら、話の節々に眺めてみたものである。

この本の中では、ハイゼんベルグが不確定理論を主張することが、全ての知的社会に大きな衝撃を与えたように表現されている。しかし、僕はそう思わない。ハイゼンベルグの不確定性理論は前衛的で科学界に衝撃を与えた。しかし、それを哲学的に使うことには反対である。物理も哲学的であるということに反対するつもりは無い。しかし、社会学などの文系の人達が自らの学説を支えるものとして不確定性理論を用いることには激しい違和感を憶える。

著者は、「むしろこの原理からわかるのは、我々が暮らしている日常世界について我々が普通に持っている形式ばらない理解と同じように、科学知識も合理的であると同時に、たまたま得られた結果であり、確固たるものであると同時に条件によって左右されると言う事なのである。科学的心理の力は強大であっても、万能ではない。」と言っている。このように、この理論を知的社会の中に際限なく広げたがる根性が好きではないのである。

この不確定性理論は、量子の振る舞いを特定しようとした試みから出た理論で、その目的とするところが、恣意的なインパクトを持つものでは決して無い。著者も博士号を持つ科学者らしいが、その点では哲学的な結論に瑕疵を持たざるを得ない。
5.0 戯曲「コペンハーゲン」にも匹敵する深みのある著作
量子力学誕生をめぐる著作は数多く、いずれもたいては面白いのですが、この本はずば抜けて面白い。なぜなら、この本の著者リンドリーの目を通した、主役(アインシュタイン、ハイゼンベルク、ボーア)から脇役(シュレディンガー、ディラック、パウリなどなど)までの人物像の描写が、生き生きとしているからです。例えば、シュレディンガーには妻以外に複数の恋人がいたこと、アインシュタインとボーアが互いを尊敬する手紙を交わしていたこと、シュレディンガーの猫のアイディアの元が実はアインシュタインだったこと、など細かい逸話話を混ぜつつ、最終的には物理学への姿勢や量子力学をめぐる立場の違いをリアルに感じさせる内容につながっていきます。群像ドラマとしても十分に面白くできています。

この本の核となる主題である不確定性、相補性、これらが物理学会に与えた影響、さらに哲学などの他分野の反応を情報として羅列するのではなく、その背景にまで踏み込んで詳細かつリアルに描写しています。著者は相当の参考文献、書簡に目を通していると想像されます。だからこそ、これだけの描写が可能になったのでしょう。著者の知識の幅広さは、その当時の作家D・H・ロレンスの詩(下記)を効果的に引用していることからもうかがえます。

相対性理論と量子論が好きなのは
私にはよく分からないから。
(中略)
そして原子はまるで衝動に身を任せ、
しょっちゅう気を変えているかのようだ。


量子力学に興味のあるさまざまな人にお勧めできる一冊です。

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