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荒地の恋

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荒地の恋の商品レビュー

5.0 その時代を生きた詩人達の生き様
北村太郎も田村隆一もそしてねじめ正一も、不勉強でよくわからない状態で手にとりました。

その時代、昭和初期に生まれ戦争に行き、そして戦後の時代を作った人たち。
彼らの中には今の時代に生きている我々より、情熱やあきらめやデカダンスや粘り強さが
ある。そして生きることに対する態度が違うと思うのだ。
これは詩人であり社会人であった北村だけが持っているものではなく、おそらくその時代の
色として皆が持っていたものだと思うのである。

53歳で妻以外に恋をして、でもその一途な情熱はこの小説からは熱くは伝わってこない。
また、妻に対してのおもいやりはなく、20年も一緒にいた年月は意味がないのだと思い
知らされる。「人の気持ちは変わっていくものだ」
その後に繰り広げられる北村の後半の人生は、詩というよりは、翻訳と生活が中心なものに
なっていく。
それでも彼は人生に淡々と立ち向かい、日々をすごしていく。
明子との出会い、阿子との出会い。全てがすばらしく、彼の生活を彩っていくが、でも淡々と
すごしていくのだ。

だがこの生活の中から彼は詩を生み出していく。
これが不思議なのだ。
詩人は詩人としての生活や思索があるわけではないのか?
我々とは違う生活や人生を通してあの詩が生まれるわけではないのか?

人生で与えられている時間は全ての人に平等である。
その中で何を生み出すかは全ての人に与えられた自由であり、彼らはたまたま詩であったの
だと。

作者の渾身の情熱が伝わるすばらしい作品。語り口もすばらしい。

4.0 詩を書くこと
ねじめ正一は,同じ詩人として,詩を書くことが生きることにどうつながっていくかを,北村太郎の人生を通して,正面きって書きたかったのではないだろうか.北村太郎と田村隆一の関係もさることながら,加島祥造の恋人だった15歳年上の才媛と,死ぬまで極秘結婚していた鮎川信夫の生き方も,詩人がそれぞれ守り抜いたものをあらわしていて印象的である.
3.0 北村太郎って人物を通した人間賛歌の趣き
  久々に「私小説」風を読んだ。ねじめ正一が書く北村太郎の私小説。まあこの生き様といい、日記や手紙や詩が挿入される手法といい。俺は現代詩とか詩人にはめちゃくちゃ疎くて関心もないんだけど、意外に詩人というのは普通の人なのだなぁ、という感想を持った。波乱万丈といえばそうなのかもしれないけど、夫婦関係、親子関係、友人関係、師弟関係、恋愛関係、どれひとつとっても、その感覚って突飛でもないし違和感もない。逆に、アメ車に乗ってほとんど足を使って歩かないっていう鮎川信夫の日常は、詩人って先入観を突き崩す。詩作を、ある種一般の人にとっての労働に近いものとして捉えている感覚も新鮮。
  詩ってのは、そういう誰もが持つ感覚を何かに変換したアウトプットなんだろうけど、残念ながら俺にはその変換されたアウトプットを受け取る感受性が欠落している。だから、挿入される詩もまったく琴線に触れるところがないんだけど、こうして小説ってアウトプットだと、北村太郎って人に対して自分なりに想像したり共感したり反発したりすることが出来る。しかし、この人は幸せだよなぁ、っていうか羨ましいよ、色々な人と色々な関係が持ててさ。まぁ、それも小説っていうフィルター通して、読者っていう安全地帯からの感想であることは言うまでもない。モダンとかロマンって外野から見ている分には楽しいけど、当事者として巻き込まれるのはいやだもんな。やっぱ、その覚悟を持てるかどうかってのは芸とか文学とか表現者の資質、条件なのかもしれない。しかし、俺もいい年なんで、老いとか性(生)への執着とか身につまされるなぁ。この小説って北村太郎って人物を通した人間賛歌って趣きもある。ねじめ正一のリスペクトっつーか、取材ぶり、乗り移りぶりも凄い。個人的には、北村太郎が横浜大洋ホエールズ・ファンであることに一番共感したんだけど(ジャイキチのねじめ正一が書いてる点も面白い)。
4.0 詩人でありつづけることの栄光と悲惨
昔、NHK教育の若者向け番組のなかで、田村隆一がインタビュアーの齋藤とも子(女優、のちに芦屋小雁と結婚するが離婚)に、「あなたたちのようなマクドナルドのハンバーガーがあたりまえになった世代は感受性が違ってくる」というようなことを言っていた。今にして思えば慧眼である。『荒地』の詩人たちのなかで、70年代の消費社会化という日本社会の構造的変化にきちんと対応していたのは、田村だったと思う(それと、吉本隆明も)。その対応は、「詩人」というキャラクターを貫くことでなされた。この時代、現代詩にくわしくない読者でも「詩人」として知っているのは、谷川俊太郎と田村隆一だった。

北村太郎が、絵に描いたような平穏な家庭を破壊する道を選んだのは、恋愛だけではなく、このような田村の立ち位置に対する嫉妬やライバル意識のようなものがあったのではないだろうか。戦後詩の歴史のなかにビッグネームのひとりとして記録されるのではなく、現役の詩人として生きる道を北村は選んだが、それはあまりに凄惨な代償をともなっていた。不倫のようなゴシップとしてではなく、詩人でありつづけようとした人物の栄光と悲惨の物語として、この小説は読まれるべきだと思う。

私は、一度だけ北村太郎を見たことがある。76年頃だったか、鮎川信夫の著作集が完結した記念の催しが開かれ、司会の三好豊一郎や講演者の吉本隆明らとともに出席していた。おそらく、小説に描かれた難しい恋愛関係がはじまった頃だ。小柄で、高いスツールに座って脚をぶらつかせていた北村の姿は、猫を思わせた。この本の表紙に描かれた猫の絵は、その時の北村のイメージによく似ている。この催しに田村隆一は出席していなかった。
4.0 私小説家のような痛々しい詩人の私生活
北村太郎は、田村隆一の奥様、明子さんと恋愛関係に陥ったことを、そのまま妻に明かす。これって、けっこうキツイことだと思う。妻にも、夫にも。それから、明子さんとの生活が始まるのだが、田村隆一が奥さんを呼び戻すと、北村は身を引くのだった。愛を求めるというよりは、より大きな心の傷や葛藤を作り出すための人生を送っているかのような私小説家のような詩人の生涯。そこまでしないと生れないなら詩なんていらないと思ってしまう。純粋というより、子供みたいだなと思った。

北村太郎の日記をもとにして書いたのだろうが、ねじめさんもよくここまで明かしたものだと思う。

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