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翻訳夜話 (文春新書)

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翻訳夜話 (文春新書)の解説

東京大学の柴田教室と翻訳学校の生徒、さらに6人の中堅翻訳家という、異なる聴衆(参加者)に向けて行った3回のフォーラムの記録。「夜話」とあるように、話の内容はいずれも肩の凝らない翻訳談義だが、レベルの異なった参加者との質疑応答の形をとっているために、回答内容は自ずから微妙に変奏されており、結果として入門、初級、中上級向けの3部構成の翻訳指南書に仕上がっている。

柴田が書いたあとがきに、「翻訳の神様から見れば、我々はすべてアマチュアなのだ」とあるように、両者の回答は、体系化された技術・翻訳論議に向かうのではなく、翻訳を行う際の、動機や心構えを説明することに費やされている。例えば「大事なのは偏見のある愛情」(村上)とか、「ひたすら主人の声に耳を澄ます」(柴田)とか、あるいは「(翻訳することによって、原文の世界に)主体的に参加したい」(村上)といった具合だ。

途中に、「海彦山彦」と題したカーヴァーとオースターの同一の小品(巻末に原文がある)の競訳が掲載されており、プロ翻訳家たちとの最後のフォーラムでは、これを巡った質疑が展開する。文脈や文体のうねりといった、一般論では語り尽くせない領域で具体的な論議が進行するこの部分からは、競訳ゲームのおもしろさという以上に、テキストと翻訳家との間で生じる本質的なスリルが伝わってきて、非常におもしろい。劇的な魅力たっぷりの、本書の白眉と言っていいだろう。(玉川達哉)

翻訳夜話 (文春新書)の商品レビュー

5.0 村上春樹を理解するための重要な資料
「写真がカメラマンの立ち位置/表現意識を逆説的に示している」ように、翻訳について客観的に語られているように見えるその文言から、逆に著者の「特質」が<赤裸々に>語られているように見えます…個人的には「最もリアルな村上春樹」がそこにいるように感じられました。
一例を挙げると、よく語られている「小説を書き始める契機」の逸話について、個人的には「何も無い地点からの思い立ち」で書き始めたというストーリーに、皮膚感覚的に(ややもすると)しっくりと来ない点があったのですが、本書209頁のコメント「小説を書くようになる前に、趣味で翻訳をしていた」を知ると、前出の逸話が大変に納得できるものに感じられました…つまり「そうだ、(翻訳ではなく)自分で話を作ればイイんだよな、好きなように」と彼が自身の心の中で<はじけた>というのであれば(当方も編曲というのをやっていた手前)皮膚感覚的に理解ができるという風で…。
しかし上記の視点に限らず、一個の類い希なる表現者としての様々な思いが赤裸々に(フィルターを余り介さずに)語られている点においても、価値の高い本であると感じられますし、この現在に置いてこの語りに「勇気をもらう」方は大勢いるのではないでしょうか?
5.0 バランスのとれた楽しい対話
村上 春樹氏、柴田 元幸氏の二人の対談を聞いているかのように楽しんで、読ませていただいた。翻訳の仕事は作品を愛することから始まるのだと実感。どの作品でも訳すことができるのではなくて、「自分」にあった作品に巡りあって楽しむことが「翻訳」の醍醐味かもしれない。

村上氏の「作家」としての作品の取り組み方と「翻訳」しているときでは、頭の異なる部分を使うという記述には納得した。バランスをとって仕事されているところには興味がある。
5.0 村上春樹が好きなわけ
 村上春樹の作品をなんとなく読んでしまう。ついつい読んでしまう。なんとなく心地がよいのである。どうしてなのか長年不思議に思っていた。その理由がこの本でわかった。彼は、翻訳するときにリズムを大切にしているという。なるほどリズムか。それは翻訳でなくとも、小説でも同じことに違いない。そのリズムに私は酔っていたのである。これだけのことだが、私にとっては星五つの素晴しい発見だった。あと、二人がそれぞれ好きな作家の翻訳を二人で試みており、訳がどのように違うか比較できるようになっている。結論から言うと、好きな作家を訳しているほうがやはり味わいがある。好きだということが、より深く作品を理解できるということなのか、より深く理解できるから好きなのか。まあ、どちらでもよいが、好きだということが、翻訳にも決定的に影響するということことがわかり、感動した。
5.0 オースターの『オーギー・レーンのクリスマス・ストーリー』は本当によかった
「人間って誤訳を指摘されるとまずみんな傷つくんですよね」(p.97)ってのは本当だな、と思う。致命的なミスみたいに感じられてしまうのか。

 後は、「アメリカ人は大きくて分厚くて、みっちりと活字のつまった本のほうが好きみたいです」「日本人があることを論じるときに、小説よりも論説文で感じるんだけど、起承転結があったら四段落使います。それが英語だと、起承転結がワンパラグラフなんですね」(p.104)あたりもなるほどな、と。

 ダジャレがあったらルビを振るぐらいで、置き換えはできない、というのが「越えられない一線」(p.109)というあたりや「翻訳というのは濃密な読書」(p.199)なんてところも共感する。愛する田中小実昌さんのチャンドラーの翻訳はまだ古びていない、と褒めてくれているのは嬉しかった(p.229)。

 すでに翻訳されていた村上訳のカーヴァーと柴田訳のオースターの小品に、それぞれ村上春樹さんがオースターを、柴田さんがカーヴァーを訳して対比させるという趣向も素晴らしかった。当たり前だけど、やっぱ、うまいな。ふたりとも。
5.0 村上春樹も、柴田先生も楽しそう
翻訳について興味のある人はもちろん、村上春樹、柴田元幸のファンはまちがいなく楽しめると思います。ただし、柴田先生もおっしゃってますが、方法論的な、ある意味で翻訳「道」的なことは一切といってよいほど含まれていません。(まるっきり書いてないわけではありません)
むしろ、翻訳に臨む楽しさ、小説のテキストの自立性、文体の問題などを二人がたっぷりと語らっています。
彼らは、非常に文章表現に愛情を持っていて、それが翻訳という必ずしも苦労の少ないとは言いがたい仕事をたくさんこなす原動力になっているんだなぁということがしみじみとわかります。

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