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坂の上の雲〈5〉 (文春文庫)

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坂の上の雲〈5〉 (文春文庫)の商品レビュー

5.0 二百三高地
 私は、「坂の上の雲」の登場人物の中で、児玉源太郎が一番格好いいと思う。むろん、歴史「小説」であるから、史実とは異なる箇所もあろうし、著者の主観が入り、図らずも脚色されてしまっている箇所もあるだろう。それを承知の上で、小説として本作を読んだ場合、児玉源太郎が一番なのである。

 陸軍大将であり、内務大臣などの顕職も歴任しておりながら、児玉は少将相当職である陸軍参謀本部次長への異動という降格人事を受け入れ、あらん限りの力をふりしぼって、ロシアとの戦いに臨む。本巻では、旅順要塞を前に苦戦する第三軍(乃木大将指揮)に赴いて、専門知識に拘泥して合理的な判断ができなくなっている将校や、現場を見ようとしない参謀らを叱責し、大規模な作戦修正を命じて旅順要塞を陥落させるのである。そのときの児玉の厳しさや情の深さが、人間臭く、また、懐の大きさを感じさせる。

 「諸君は昨日の専門家だったかもしれん。しかし、明日の専門家ではない。」、「国家は貴官を大学校に学ばせた。貴官の栄達のために学ばせたのではない。」

 深い言葉である。小賢しい専門知識を振り回す者や、あさましい功名心を持つ者の心を突き刺すからだ。人間は誰しも、このような傾向を持つのだと私は思う(むろん、私もその一人である)。だからこそ、この言葉は私を惹きつけてやまない。
 

 
3.0 司馬ファンからの叱責覚悟で反証
 司馬遼太郎さんの著名なベストセラー。司馬さんの歴史小説の痛快さは、ものごとを断定し、白黒を鮮明にする、独特の空想的歴史観にある。「読んで分かりやすく面白い」それが、司馬作品の魅力でもある。
 しかし、これは小説だ。歴史書として読むと、創作部分に込められた、独創的な人物描写によって、我々は、誤った先入観を抱くことになる。

 例えば、旅順要塞攻略戦を担当した第三軍、乃木司令官と伊地知参謀を、無能と決め付け、児玉将軍の超人的な戦術指導で、劇的に勝利した。作品は、そのように創作されているが事実ではない。

 日露戦争当時、陸軍国ロシア帝国が築城した要塞は、驚異的な防御力を誇っていた。

 1854年10月に、英、仏、トルコの連合軍17万5千が、黒海に突き出た半島に築城したロシアの要塞・セヴァストポリを攻撃。8万5千の守備兵力で守るロシア軍は、徹底的に抵抗し、連合軍側に死者12万8千名を強い、落城するまでに1年かかっている。
 それから100年後、第二次世界大戦の1942年6月、ナチスドイツが、この要塞を包囲。1943年6月に落城するまで、ドイツ軍は、35万人の兵力を使い10万人が戦死。こちらも1年かかっている。
 セヴァストポリ要塞に限らず、欧州の戦場では、ベルダン要塞攻略なども、攻める側に10万人単位の戦死が生じている。

 司馬遼太郎は、旅順要塞を攻略した乃木大将を「正面攻撃をいたずらに反復し、無用の損害を出した」と描き、伊地知参謀とともに無能の軍人と断定している。
 しかし、乃木大将が挑んだ、旅順要塞は、「セヴァストポリ要塞よりも強大」といわれているほどの防御力を誇っていた。
 第三軍6万人で、6ヶ月かかって1万5000人が戦死。欧州の数字と比較すると、「乃木大将は、驚くべき最小損害で、短期間に旅順要塞を攻略した」といえる。

 痛快な小説を生むことにかけては、天才的な才能を発揮した司馬さんは、「資料を読み解き、歴史を分析する能力にかけては、あまりにも無知無能だった」と思う。乃木大将と、我々日本人のために、そう伝えたい。
5.0 組織内部の《陰謀》が、組織を破滅させる。
戦争の存在に関しては、私は当然、否定的である。しかし、国際社会を生き抜くための力としての《軍事力》は、必ずしも否定できません。また、個人の人生を勝ち抜くためには、《戦略》的な視点や、具体的なスキルとしての《戦術》も必要です。そういう意味で言えば、日露戦争をテーマにした、この(第5巻)も非常に面白いです。特に、兵力の面で見れば楽に勝てるはずの戦いも、無意味な《権力闘争》や、組織内部の《陰謀》によって、簡単に負けてしまう所が非常に興味深いです。組織全体の利益よりも、自分自身だけの利益を追求する人間が、組織内部で陰謀を張り巡らし、最後には、組織全体が破滅に至る所などは、非常に《人間的》な愚かさを感じました。いろいろな意味で興味深い一巻でした。

(追記:全然、関係ありませんが、彼女と仲直りしました。こちらの方も、組織内部の陰謀のために、なかなか上手く行きません。とりあえず、仲直りできて嬉しいです。)
5.0 激戦!二〇三高地!
二〇三高地の激戦。
戦争の悲惨、無能幹部にひきいられる悲劇を描く。
戦場より遠く離れた軍司令部でさも最上の指揮をとる風の参謀達に対し、
「無為無能の作戦によっていたずらに死なせてきたのはたれか」
「名誉ある勇士の死が迫っている」
「その姿をこの場にいる者で見た者があるか」
と痛罵する児玉源太郎。
「国家は貴官を大学校に学ばせた。貴官の栄誉のために学ばせたのではない」との叫びにぐっときた。
明治維新を成し遂げた日本人の気骨をみる思いだ。
それにしてもわからない者にはわからない。「参謀」たる哲学がないゆえか。その指揮で死に行く部下達のことに思いをいたせない。無意識に自分の考えに固執してしまう。そして自分のために部下を使う形になる。後の太平洋戦争の悲劇を感じる。
また、トルストイのくだりは感慨深かった。後の「戦争と平和」執筆に通じる原点が書かれている。
「坂の上の雲」は「戦争と平和」も明確に意識しているのか。
4.0 戦争の面白み
こんなに戦争が面白いものだとは思わなかった。
誤解を恐れずに言うけれど、本当に面白い。
こんなものだと知っていたら、学校での勉強はもちろん、戦争を知っている人からの話だって
若い人たちはもっと嬉々として聞くだろう。
悲惨なことはもちろん悲惨だし、人を殺すことがいいことだなんてもちろん思わない。
それが戦争という状況の中でも、哀しいことだとはもちろん思う。

飽く迄小説であり、この全てが絶対に寸分違わず事実だ、とは思わないけれど、
それにしても面白い。戦争のイメージも変わったし、日本の軍隊へのイメージも変わった。
まあこれがもっと近代の戦争であれば、ここまで面白いとは感じないのかもしれない。
武士道とか騎士道とか、そういったものが色濃く残っているところに感動するのだ。
命を顧みず突撃する勇猛さであるとか、敵将の遺体を勇猛さに感動して葬るであるとか。
休戦の日、敵軍の将と出会い、敬礼をし合って菓子まで貰うとか、
降伏すると決まったとき、この凄惨な戦いが終わったことを敵味方入り混じって抱き合い喜ぶ。
滑稽にすら思えるほどに純粋で、強く、勇ましく、道の精神に溢れていると思う。

国家から義務づけられたのでない限り、
人間は本来武器をとって殺し合うことに向いていないことを証拠だてるものであろう。
という司馬さんの一文があった。
本当にそうであろうか?と少し思った。
戦時下でも殺し合いをしたくない、と、それをしなくてはならない大義名分が終わった時
敵味方抱き合って喜んだというのに、
今の日本は、陰鬱な事件が多くて気が滅入る。
それはまあ、殺し『合い』ではないので、違うといえば違うかもしれないけど、
対等でないだけに余計に惨めで惨たらしい殺しだ。
そこには武士道精神も馬奇士道精神も微塵も無い。

私たちはここで振り返る必要があると思う。
でなければ本当に、日本はプライドも何も無いただの属国になってしまうから。
今でも結構充分なっているが。

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