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隠し剣秋風抄 (文春文庫)

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隠し剣秋風抄 (文春文庫)の商品レビュー

3.0 武士の一分の大義の下に
映画『武士の一分』の原作は、この本に収められている『盲目剣谺返し』だ。
そして当然のことながら、映画と原作はちょっと違う。

何が違うのかというと、原作の三村新之丞はキムタクほどかっこよくないのだ。当たり前だけど。
その代わり、生活感があってたくましく、それまでの人生を背負った「男」であり、「武士」なのだ。
美男子となっているのだが、そんな雰囲気ではないのだ。

新之丞は妻の加世を愛している。愛しているので、「男がいる」との噂に絶えられない。
武士の一分の大義の下に、憎い間男を成敗するのだ。

多分そうに違いない。
藤沢周平の小説で描かれる、真の武士、真の男というものは、そのような自身のプライドよりもっと大切なものをもっているのだから。
新之丞にとっては、加世の存在なのだ。

離縁するのも、万一に備えて、加世に難儀が及ばせないため。
憎い間男である島村は組頭という権力者なのだから。

その証拠に、見事、島村を討ち果たし、加世が戻ってきてくれたときに、喜んでいるのだから。

プライドよりもっと大切なもの、それを見つけてこその人生なのかもしれない。
4.0 全体としては楽しめるが出来不出来の差が大きい印象
「隠し剣」シリーズ第二段。主人公達の秘剣と男女の機微の融合が本シリーズの特徴だと思うが、本作は女性の魔性と清廉さを対比して鮮明に描いている印象。

「酒乱剣石割り」は酔う程に剣技が冴える主人公が痛快だが、さして効果的とは思えない主人公の妹の淫乱な転落物語を挟む所が本作の趣向か。「汚名剣双燕」は驕慢な女に振り回される主人公の悲哀に忸怩とさせられる。「女難剣雷切り」は女運の悪い主人公がコキュ役まで演じさせられる悲哀を滑稽味の中に描いたもの。「陽狂剣かげろう」は藩主の息子に許婚を奪われた主人公が陽狂を装っているうちに、本当の狂気に陥ってしまう様を描いた異色作。前二作と合わせ、現代にも通じるテーマが続く。「偏屈剣蟇ノ舌」は偏屈者の藩士を扱って「たそがれ清兵衛」を思わせるが、偏屈者だからと言って刺客役を仰せつかる構想は無理があろう。「好色剣流水」は主人公が本当の好色なので読んでいて共感が沸かない。女性だけでなく、男性の色欲と堕落を描こうとしたものか。「暗黒剣千鳥」は藩の権力闘争を背景に、主人公の婿入り話と暗殺劇を巧みに織り交ぜた佳作。「孤立剣残月」は過去に上意射ちを行なった主人公が四十を過ぎて、その弟の仇討ちの意志の噂を聞き、周囲に右顧左眄するが相手にされない様子をユーモア味で描いておいて最後に泣かせる心憎い構成。「盲目剣谺返し」は味見役として盲目となってしまった主人公とその妻の苦悩と夫婦愛を描いた秀作。「武士の一分」と言う言葉は有名になった。

バリエーションを付けようとしたものか、作品毎にレベルの差が大きい気がする。姉妹作に比べ凄みのある秘剣が少なく、人物設定やストーリー展開も物足りない気もするが、藤沢作品の味が堪能できる好短編集。
5.0 若い人に読んでほしい
どの短編もおすすめであるが、私が出色と思うのは、暗黒剣千鳥と盲目剣谺返しである。
両編ともに、主人公とそばにいる女性のこれからが余韻となって非常に気にかかる。
とくに、盲目剣谺返しは、映画を見てみようかという気にさせる。



隠し剣シリーズを読んでいて感じるのは、藤沢周平の江戸時代への思いである。
主人公がいて、その妻あるいは婚約者がいて、
その二人の関係を通して江戸時代をうまく書いていると思うのである。
あるときは、江戸時代の風習に対するやりきれなさであり、
またあるときは、逼塞感であり。
こういう書き方って好きだなぁ。


藤沢周平といえば中年にならないとそのよさが分からないと勝手に思っていたが、
何冊か読んでみて、
高校生にぜひ読んで欲しいと強く思う。
4.0 おすすめは...
私が読んだ藤沢作品2作目がこれです。
映画化されるのを良い機会に1作目は蝉しぐれを読みました。
この作品を読んだきっかけも映画化です。

この隠し剣秋風抄には9つの話が書かれており、一番最後の盲目剣谺返しが木村拓哉主演の武士の一分に映画化されています。最後にはどこかホッとしてしまうお話です。
どのお話の主人公も秘剣を操るのですが、暗黒剣千鳥と孤立剣残月が個人的には好きです。他のレビュアーの方が書かれているように、この作品のお話に出てくる主人公はみな、それぞれの武士の一分を守るために闘います。そしてその闘いの後、死に逝くものもいます。ですが、やはり私個人としては最後に希望の光が見えるような、この先を見守りたくなるようなこの2つのお話を特におすすめしたいです。
5.0 濃密な小説読みの一時(ひととき)を求める方に
精神的に本を読むのが億劫になっていたときに、偶々出会いました。40頁ほどの短編が9本入っていますが、一編一編の読後の満足感と余韻は半端なものではありません。各編とも、良質な長編小説を読み終わった後のそれに匹敵するといっても過言ではなく、改めて読書の醍醐味と藤沢作品の素晴らしさを教えられました。(単純な私には、描かれた女性像はどれも官能的でした。個人的には、「偏屈剣蟇ノ舌」と「好色剣流水」、「盲目剣谺返し」がベスト3です。また、「陽狂剣かげろう」は、シチュエーションこそ異なりますが、小林正樹監督の名作映画である『切腹』を思わせるものがあります。)いずれにせよ、暇のある方もない方も、とにかく一読をお薦めします。

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