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夜の記憶 (文春文庫)

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夜の記憶 (文春文庫)の商品レビュー

4.0 深淵を覗き込む時はその深淵もこちらを見返している
恐怖の深淵には底がない。
だから人はどこまでも堕ちていく。

主人公の中年作家ポールはニューヨークで孤独な逼塞生活を送っていたが、とある裕福な老婦人の招きに応じ訪れた別荘地で数十年前に起きた殺人事件の真相を暴くことになる。
しかしその行為はポールの少年時代を永遠に終わらせてしまった忌まわしい惨劇、美しく快活な姉がポールの眼前で惨たらしく嬲り殺された夜の記憶を掘り出すことでもあった。

「死の記憶」全編を取り返しのつかない悲哀が包んでいるとしたら、「夜の記憶」全編には拭いがたい陰惨さが影を落としている。
どちらも事件を機に少年時代が終わりその後主人公に生涯癒えぬ苦悩をもたらすが、前者が過ぎ去りし少年時代への郷愁の色合いが濃いのと比べ本作は実際に身内が残虐に嬲り殺される過程を一部始終目撃した主人公の視点で語られるため、郷愁の一言では片付けられない何とも陰惨な後味が残る。
しかも主人公は姉を見殺しにした、間接的に姉を殺したのは自分だという強烈な罪悪感に苦しみ今なお自責の念に苛まれている。

老婦人が依頼した事件の真相よりも哀しい衝撃をもたらすのはむしろポールの姉殺害事件の真相だ。

人の狂気を示す例としてナチスが行なった残虐な実験が挙がる。
母子の被験者にスイッチを握らせ徐徐に刺激を強め電気ショックを与えた上で「助かりたければ母親を身代わりにしろ」と強要すれば、子供は自分が助かりたいあまりスイッチを押さざるえなくなる。

夜の深淵には怪物が潜んでいる。
利己的で他罰的、自分の身を守るためなら手段を選ばずどんな残虐な行為すら厭わぬ怪物が誰の中にも潜んでいるのだ。

濃密な心理描写が一層サスペンスを盛り上げる佳作。
3.0 人の心に巣食う闇
「このミステリーがすごい!」’00年海外編第7位にランクインされた、トマス・H・クック『記憶』シリーズ第4弾。

ミステリー作家ポールには、30数年前、両親を交通事故で亡くし、さらにその直後、最愛の姉を目の前で惨殺されるという悲劇的な過去があった。そのため、彼は、いまや人と付き合うことも、町に出ることもなく、半ば死んでしまった人のように、その時の恐怖体験をもとに、19世紀のニューヨークを舞台に、殺人鬼ケスラーと、ライバルの刑事を主人公にしたミステリーをタイプし続けるという陰鬱な生活を送っていた。

そんな時、彼の本の愛読者であるニューヨーク郊外のお屋敷の女主人から、想像力を見込まれ、50年前、親友の少女が殺された事件を解決してほしいと依頼される。

ポールは屋敷に赴き、たまたまゲストとして居合わせた女性劇作家の協力を仰いで、当時の捜査官の残した資料を基に、事件の真相に迫ってゆく・・・。

ポールがさまざまな仮説を組み立てて、50年前の事件のベールを一枚ずつはがしてゆくたびに、自分自身の過去の悲劇が、残酷でショッキングな「夜の記憶」のフラッシュバックとなって彼を苦しめる。さらにポールの作品中の殺人鬼ケスラーのシーンまでもが加わる。

現在と過去が入れ代わり、現実と回想と虚構の作品世界が交錯して物語が展開してゆくのは、エドガー賞受賞作、『緋色の記憶』以上に複雑で、ミステリアスである。

50年前の事件の真相自体はあっけないものだったが、そこに至る過程でつぎつぎに明らかになる当時の関係者たちの暗い秘密、終盤で明らかになるポール自身の暗い闇。そしてニューヨークに帰ったポールの結末。

著者は本書で、あくまでも執拗に、人の心に巣食う闇の部分を抉り出そうとしている。
5.0 色んな意味で手放したくなくなった。
ネットの掲示板で知ったのだが、今まで外国のミステリーはほとんど読んだことのない自分は
どうせありふれたミステリーものだろうなと大した期待もせず買って、
すぐには読まずに本棚にしまっといた。で、ある日の夜眠くならないので何となくこれを手にとってみた。

出だしは退屈で、設定とか人物名を何度か確認したりしたけど、そろそろ眠くなってきたところで
ジワジワ面白くなってきた。後半は眠気も抑えて一気に読んだ。
謎と一緒に「人間の奥底」も紐解かれていく感じ。読了後、人間の中の狂気や恐怖に心底
怖くなって、こういう人間が世界中にたくさんいる事実と、いつ、誰でも簡単にこんな風に
なれるもんなのかと思うと鳥肌が立った。
極端かも知れないが自分が人間でいることにすら恐怖を感じた。

背景としてはよく洋画や絵画にありそうな風景を想像した。
これって映画化したら面白いんじゃ?

あとがきにもあるけど「この作品は気の弱い読者には勧められない」。

4.0 怖ろしい物語
この作品は、クックの他の作品に共通する中弛みのかったるさが余り無く、中盤も少女殺しの犯人を追っている過程が描かれているので、最後まで面白く読めました。ただ、複数のストーリーが同時に進行し、しかも現在の出来事、過去の出来事、主人公の回想的な出来事、と言った具合に進行するので、注意深く読んでいかないと、途中で訳が分からなくなり易いです。しかし文章は美しく詩的で極めて印象深いセリフが所々に散りばめられていて(例えばエレナが主人公の内面を直感で感じ取って言う「それは、あなたなのね」など)、クックの本領が発揮された長編ミステリー小説です。またこれは一種の恐怖小説でもあります。色んな方が指摘されていますが、本当に恐い・・・。
4.0 錯綜する3つのストーリー
この作品は50年前の殺人事件の謎解き、謎解きをする作家の過去の記憶、そしてその作家の作品の3つの話が複雑に絡み合っていく。
 過去をテーマにしつつも、このような作品の表現方法があったのか、とただただ感心してしまった。
 ただ、私の場合、読んでいる途中で、何度も人物設定を再確認しなければならなかったのが残念。

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