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冬物語 (文春文庫)

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冬物語 (文春文庫)の商品レビュー

4.0 短篇は新鮮さを失わない
250ページほどの分量に対して、12の短篇。ひとつの話は20ページくらい。とても短い。

話自体はどうということはないのだけれど、「急須」という話が好きだ。
軽いうつになって、大学に行くことができず、部屋で急須をみがくことで現実逃避をはかる医学生。
たまたま参加した、大学病院の患者を学生が実際に診察するという授業で、彼が看たのは、急須を買った店の店主だった。診断は、ガン。もう長くない。彼は、急須を買う際に、芥川を読んでいた店主と、夢中で芥川談義に花咲かせたのを思い出す。

芥川談義がいい。短いけれど、静かな彼らの熱気が、思いが、伝わってくる。
「芥川ですね」「うん、そう、芥川。昔の本だけど、今読みなおしてみると、あらためていいよね。この急須みたいに、芥川の文章はバランスがいいよね」「芥川の作品ではなにが一番お好きですか」「『秋』には全体に大正末期の東京郊外の秋の空気が感じられるんだよね。セピア色で、品がいいんだよね。せつない恋の物語ではあるんだけれど、登場人物たちが澄んだ秋の空気にくるまれているから清潔で上品なんだよね。いいよね、『秋』は」

もしこれが長編なら、もっとじっくり語るのだろうか。すみずみまで、細かく。でも、これだけなので、僕は芥川が読みたくなった。
登場人物たちと、読者の僕が、この文章を通じて同じ方向をむいた瞬間、という気がする。そしてこのひとときを彼らと共有した読者は、だからこそ主人公の思いに共感せずにはいられない。「もっと小説の話をしておけばよかった。気軽に店に寄ればよかった」と。

この中の短篇には、南木さんのこれ以前の作品で、もっと長いエピソードとして既に語られていた話を、モチーフとして再び取り上げているものもいくつかある。でも、その味わいは随分違う。長い作品に対しては、読者はじわじわと、体を慣らしながらその世界にもぐっていく。エピソードの与える感覚は、いつの間にか、読者の一部になってしまっている。そのことに気づかないことさえある。

短篇は、自分のいる、いつもの世界とは違う世界を、あっという間に走り抜ける感じだ。新しい感覚が、熱いままに体に残る。それがわかる。だから、短篇はいつ読んでも新鮮だ。

素直な文章の中に切れ味のするどい一文をまぎれこませるような南木さんの文章には、こういう短い短篇のほうが合っているのではないか、と思う。
5.0 心癒されます
医師としてというより一人の人間として、生と死をあるがままに受け入れる作者の姿勢が伝わってくる短編集です。重いテーマであるにもかかわらず、信州や軽井沢の自然に心を癒されながら肩肘張らない作者の生き方が読者の心を和ませてくれます。
時間に追われ忙しい毎日をやり過ごしている自分にとって、ふと立ち止まって「もう少しゆっくり人生を過ごしてみようかな」という気持ちにさせてくれる、そんな一冊です。
5.0 南木佳士作品はわが故郷
私は信州佐久で生まれ育った。医師南木桂士が勤める総合病院にはかつて亡き父も数回入院していた。その病院はわが尊敬してやまない若月俊一名誉院長が昭和22年設立したあまりにも有名な病院。そこに働く、というより、そこで
医師として人間として苦しみ悩む作者に限りなく親近感を感じる。医療の現場で、渡辺淳一のような強さにも惹かれるがもろく壊れそうな彼にも共感を覚え、心重く切ない思いで作品を読む。が、底を流れる人間への暖かさに無意識のうちに安らぎをおぼえている。 また彼の作品の風景・地形・方言はまさに私の人生・故郷。短編の中の『冬物語』にはなつかしい方言が溢れている・・・「あぶねえとこだら誰にも釣れるだに」「三千円も稼ぐですに」・・
5.0 中高年の心の傷を癒してくれる
 戦後最悪の失業率となっている今の日本は、誰もが皆いろいろな悩みを持ち、傷みを負って生きています。でも、それを打ち明けられないのがまた私達、とりわけ中年のサラリーマンたちです。皆、元気そうな顔を作って日々を生きています。

 95年から96年に発表された12の小品集は、こんな私達の悩みや傷を癒してくれるようです。悩み、傷を負ったのは自分だけではないんだと。もっと苦しんだ人もいる。家族の愛、季節により移ろいゆく信州の自然、山の清流での釣り、そして病んだ人とのつながりなど・・・・・・徐々に回復していく著者の姿が、静かな語り口で、優しく綴られています。
 

 南木さんのファンになってしまった私が最初に巡り合った作品です。多くの悩める方々に勧めます。

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