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迷走する物理学

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迷走する物理学の商品レビュー

4.0 自然が持つ深遠さ故の魅力
 ストリング理論の研究が実績を挙げていないにも拘らず、大学などで優遇され、ストリング理論以外の理論の成長を妨げているという主張を非常に厳しく論理的に述べています。特に、大学や研究機関に対して、基礎物理学の健全な進展を促すための提言を多く述べており、本書はこれら機関に向けて書いたのではないかと推測されます。しかし、ストリング理論が検証可能な科学理論として上手くいっていない事や、現在の基礎物理学が大変迷走している事について、詳しく解説されており、物理学科の3、4年生位の知識があれば、興味を持って読むことができると思います。本書から基礎物理研究の最前線について知り、人類が量子論と相対性理論の奥にある統一理論を手にするには、まだ時期尚早であると感じました。しかし、それは自然が深遠であるためであり、自然について以前より神秘的かつ魅力的に感じるようになりました。
5.0 物理学の閉塞
超ひも理論の問題点を指摘し、打開策を探る本。

超ひもの問題点がさまざまに指摘されているが、超ひもを全否定しようとする本ではない。
本書の意図は「本当の問題は、ストリング理論に多大なエネルギーがかけられた理由ではなく、それ以外の取り扱い方に十分と言えるほど手間をかけてこなかった理由の方である」(p445)に集約されているだろう。

超ひもは、理論が現実からどんどん乖離している。
理論において数学的美しさを推し進めてはいるが、それが現実と合致しているかはあまり重要視されず、ひたすらモデル分析に終始している。
例えば超対象性の美しさを求めるため、見つかっていないがあるはずのペアの粒子を大量に仮定する。
理論を先行させ、現実には見つかっていない粒子が置かれるのだ。

超ひもは、変数が余りにも多く、実験がどんな結果を出してもそれを取り込めてしまう。
しかしこれでは、実験が反証としての役目を果たせない。
超ひも理論がなぜこのような方程式なのかと言われても、実験結果にあわせるため、としか答えられなくなる。

結果、30年たっても、超ひも理論は有効な予言を何一つ出せずにいる。
超ひも理論は、理論ではなく仮説止まりだ。


しかし本書を読んで目が留まったのは、超ひもの話よりも、物理学会の問題の方であった。

既存の理論に異論を挟むことは許されず、ひたすらシステムに従って計算していくだけの科学が、学生のうちから叩き込まれる。
教授のポストや研究費の関係から、自分が信ずる道よりも、流行り誉めそやされているだけの研究をせざるを得ない状況がある。
こうして、数稼ぎの論文だけが大量生産され、流行が去れば忘れられる。

今は超ひもが幅を利かせており、超ひもをやらないものは一段低く見る風潮さえあるそうだ。
超ひもでないと職につくのも大変な時代になっている。
そのため、超ひもをやらないと職にも就けず、結果、超ひも以外の有望な研究はほとんど進んでいない。


ギトギトした教授選定の裏話などは、なんとなくがっかりさせられてしまう現実である。
一方で、「科学知らずの科学哲学者」ではなかったファイヤアーベントと著者との友好の話などは心を和ませてくれる。
能力が活かせるか否かは、運の要素も大きそうだ。
私が仕事をするころには、学会(物理に限らず)の閉塞性も打破されていてほしい。
5.0 ここ数年どころかここ百年内最高の科学書のひとつなんじゃないか!?
ウォイト著『ストリング理論は科学か』のΩさんのレビューでの推薦に従い本書『迷走する物理学』を読み始めた。正直、Ωさんの言うとおり!ウォイトの著作よりも断然、もう断然、深い!とてつもなく深い!!

ウォイトに刺激されてストリング理論の台頭と停滞の科学論的意味を考えなきゃいかんと自らに課題を課した僕でしたが、そんな仕事はもうあらかた著者スモーリンが本書でやってのけてしまっていました。なるほど、ストリング理論の失敗は、革命科学を通常科学のやり方でやり通そうとする矛盾からの必然的帰結なのだ、と。

素粒子物理学の標準モデルを産み出した研究スタイルこそクーンの言う「通常科学」のそれであるというスモーリンの指摘は、素粒子論のやり方と量子力学・相対論のそれとが同じものではないというレビュアーのこれまで抱いていた漠然とした印象を明確に言葉にして表現してくれたところがあって思わず納得でした。確率解釈をめぐる量子力学の基礎問題を不問にふしたまま量子力学をただひたすら応用していく素粒子論研究者たちの進み方に違和感を感じずにはおれなかったからです。同じような違和感を感じて物理学科を中退しかかった、しかし科学哲学者ファイヤアーベントの著作に救われた、というスモーリン自身の若き日のエピソードが深く心に残りました。科学論の最良の業績が最良の科学者を科学に引き戻せたということに科学論の存在意義を確信してしまいました!

コペルニクス以来の科学の進歩の展開の本質をこれほど明晰に理解させてくれた科学史叙述を本書以外にこれまで読んだことがないし、そんな壮大な歴史的・哲学的視点から現在のストリング理論の問題点を指摘した論述も目にしたことがありません。アインシュタインの洞察の本質を「背景非依存」として理解せよなんてことも初耳。何から何まで、そこらのありきたりの科学啓蒙書からは得られそうもないきわめて深い洞察で書かれています。正直、これだけの質をもった科学啓蒙書をかつて読んだことがないような気がします。

いや、むしろこの著作は「科学啓蒙書」なんて分類すべきじゃないのかも。これは単なる紹介本ではなくそれ自体科学を推進する仕事、それも実に大きな仕事なんじゃないか。それほど本質的と思える著作の中で、現代科学の体制が根本問題への独自の長期的取り組みを阻害していることへの元気がなくなるくらい詳細な告発が少なからぬウェイトを占めているというのは悲しいことですが、しかし、スモーリンの慧眼はそうした科学の研究体制の構造的問題こそが現在の危機の本質なのだということを見抜いたわけです。本書は科学界の現状を冷静に分析した科学社会学書としても非常に優れたものだと思います。

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