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村上春樹が『風の歌を聴け』のなかで、主人公にレコードショップへ赴かせ、店員の取り出す2枚のレコードから1枚を選び取る。その2枚とはバックハウスとグレン・グールドで、主人公は当然後者を手にするのである。これはクラシック音楽にとっての、その後の象徴的なエピソードではないだろうか。 バックハウスはいわばクラシック音楽を象徴する巨人の一人であり、近寄りがたいカリスマでもあれば、ピアニストの指標でもあった。 グールドももちろんカリスマの一人ではあろうが、それはより現代的な、商品としての音楽を代表する第一人者であり、語弊を覚悟で言えば「元祖引きこもり」ピアニストでもあった。 そのグールドを中心に描かれる2人の男の悲劇が「ゴルトベルク変奏曲」さながらの構成で展開してゆく・・・というのが著者の企図。 レビュアーは「ゴルトベルク・リハビリテーション」というものを考えているが・・・。グールド好きにお奨めだが、完全なフィクションなので、グールドはホロヴィッツの弟子だったことはない。