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反・嫌煙運動において評者は全面的に小谷野を支援するが、様々な媒体で述べている政治的言辞についてはいつも首を傾げたくなる。しかし、本書は以前青土社版初版で読んで感銘を受けた。 小谷野は嫌煙のみならず、ドストエフスキーにも反旗を翻していて、これはこれで説得力のあるものだ(評者はドスト・シンパだが)。それを含めた小谷野の文学観が全面的に開陳されているのが本書だろう。 ヘミングウェーの『武器よさらば』を詰まらぬマッチョ物と切って捨て、『日はまた昇る』の「不能性」にこそ人間の可能性を見出す視点は感動的である。フラジャイルであることの強さとでも言おうか。それこそが人間であることの強さなのだ。 また『赤毛のアン』の作者モンゴメリのレイシズム紛いの上昇志向に疑問を呈する「実現すべき自己などない時」は、モンゴメリにもアンにも一切興味を持たない評者にも興味深かった。この一編は、現在出版業界を席巻する「腐れ自己啓発」「浅はか自己実現」系のお話からビジネス本までを無化する力がある。 より積極的な意味で参考になるのは、ヘンリー・ジェイムズやイーディス・ウォートンを扱った章であり、彼らの作品にあまり馴染みのない読者は目を開かされるだろう。批評にはある種の啓蒙的な要素が必要だと、評者は信じるが、さすが『バカのための読書術』の著者、そのあたり周到な配慮を感じさせる。文庫化で再読しても大変勉強になった。