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脳のなかのワンダーランド

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脳のなかのワンダーランドの解説

   脳の働きについては、これだけ医学が発達した現在でも、いまだ多くが謎に包まれている。それは、脳と心の関係が密接であり、このような主観的な対象を科学的に分析すること自体、難しいからだ。本書では、そんな「脳の不思議」を解明していく。

   著者のジェイ・イングラムは、テレビやラジオの科学番組の司会も務めるカナダのサイエンスライターである。本書以外にも科学全般に関する著書があるが、いずれの本においても、難しい事柄をわかりやすく、かみ砕いて解説してくれている。

   たとえば、左側にあるものが見えないという「半側無視」。ここでは、右側にあるものは認識できても、左側にあるものは、「見えない」という事実にさえ気がつかない、という患者のケースが紹介されている。この実験は、イギリスの神経心理学者が行ったものである。それぞれ白地に黒で描かれた家、ただし片方の家の左側の窓からは赤い炎が出ている2枚の絵を見せ、「2軒の家は同じですか? 違いますか?」「同じです」「どちらかのカードに異常なところはありますか?」「いいえ」などのやり取りをした。次に、2枚のカードの上下を入れ替えながら17回にわたり、「どちらの家に住みたいと思いますか?」と繰り返した。すると、火事でない方の家を14回も選んだのである。患者から見ればまったく同じ2軒の家にもかかわらず、無意識のうちに脳が炎に気づき、その意味を把握し、患者の意思決定を導いているのである。一体、脳のどの部分が、そのような不思議な現象をもたらすのか。

   そのほかにも、自分の左手が別人のものと思い込む女性、ベッドの横板が落ちてギロチンの夢を見た男性、自分の分身を目にした登山家など、われわれの日常からは想像もつかないような障害の事例が取り上げられている。

   本書のおもしろさは、このような限られた字数では語れない。ぜひ一度、目を通して、脳の謎に近づいてほしい。本文中でイニシャルだけで語られる、脳について多くを明らかにしてくれた友人たちに感謝をしながら…。(冴木なお)

脳のなかのワンダーランドの商品レビュー

4.0 脳と心の不思議な世界(ワンダーランド)を読者にいざなう
 本書も、「脳のなかの幽霊」(V.S.ラマチャンドラン)と同じように、脳に障害を負った方々の数々の事例を通して、脳と心の不思議な世界(ワンダーランド)を読者にいざなうことを目的に書かれたものである。

 ただ、ヒトゲノムの解読が完了しても、脳の不思議な働きは簡単には解明されそうにない。遺伝子のDNAは4種類のデジタル配列で示せるが、心の作用はアナログであり、科学で分析するには困難が待ち受けていることは明らかであるからである。そういう意味で、個々の事例を積み上げることは、遠回りに見えても実は着実に解明に繋がっているのだと思う。ただ、面白い本でした。
5.0 追悼H.M.氏
認知心理を学ぶものなら、H.M.氏のことはよく聞くことだろうと思います。わたしも「重度てんかんの治療のために、外科的手術で海馬を切除され、その結果、新しいことが全く記憶出来なくなった悲劇的な例」としてH.M.氏のことを記憶しています。

 1950年代、彼はそのとき27歳。執刀医のスコヴィル博士はたいへん悩んだそうですが、当時の医療では脳切除は今よりも楽観的に行われていたようで、結局、海馬を含む側頭葉の大部分を切除することとなります。

 彼はその手術のために、手術前の記憶は残存しているものの、手術後のことはほとんど記銘できなくなってしまいました。

 新しいことを記憶出来ないというのは、おおまかに言ってアルツハイマー型認知症の症状と同じであると考えればよいと思います。違うのは、外科的にその症状が生み出された点です。H.M.氏の症状は進行性疾患ではないので、その症状のまま、他の疾患が併発しない限り、症状に変化はないというわけです。

 執刀医のスコヴィル博士は、みすからの手術の結果から、「(海馬切除により)重度の近時記憶障害が起こる」と警告を発したということです。これは医療事故かもしれない、あるいは行きすぎた技術だったかもしれませんが、この例のおかげで海馬機能が記銘に関わっていることが明らかとなりました。

 この本では、そのH.M.氏が、この本が出たときにまだ存命であり、筆者のインタビューに答えています。その記事が特に面白く、重要であると思いました。その様子をかいつまんで以下に転載します。

 「ものを覚えられないということは、自分でどう思いますか?」 

 「そうですね、気分のいいものじゃありませんよ。でも、そう、僕でわかることが、医者やほかの人たちの役に立つんですよね」

 (中略) 

 「今、幸せですか?」

 「はい・・・こんな感じでいいと思っています。僕でわかることが、誰かほかの人のために利用しようという人たちの役に立つんですから。それだけじゃありません。これは僕がやりたかった仕事でもあるんですよ。医者、それも脳外科医の仕事をね」

 「その話を聞きたいですね」

 「眼鏡をかけるようになって、あきらめました。脳手術では、まぶしいくらいの照明を使います・・・(中略)」

 このような、淡々としたやりとりが続きます。

 この後、この本では、H.M.氏が同じ事を2度3度と「まるで初めてのように」話したということが強調されています。しかしわたしの興味を惹いたのはそのことではなく、自分の症状が人の役に立つことが幸せであり、結果的に記銘障害になっても執刀医を恨むようなこともなく、淡々と生きているH.M.氏の姿でした。

 H.M.氏が、スコヴィル博士について聞かれたとき、「先生は、僕でわかったことを、他の人に役立てていたようです。なんだか嬉しいです。」と言ったそうです。

 H.M.氏は、未熟な外科手術の悲劇的な犠牲者だと思われており、実際そうなのですが、このおだやかな言葉がわずかな救いのように感じられました。2008年に亡くなられたH.M.氏に哀悼の意を表したいと思います。
4.0 いろいろと知りたい人のために
脳の不思議さに触れるには良い本である。脳について解説しつつ、幻肢などの様々な症例を紹介している。個人的に気になったのは記憶を忘れない男の話。

黒板に書いた数字を忘れなれなくなってしまったという話だ。私もこうなればかなり知識も増えるのに(笑)(ちなみにその男は頭から数字がこびりついてかなり苦しんだようだ)。こういう症例について詳しい人には物足りないかもしれないが、脳の不思議に触れたい人にはお勧め。

4.0 わかりやすい脳の一般向け本
脳の不思議さがわかりやすく書かれている。深く知りたい人には参考文献がコメントととも載っており、便利である。多彩な研究例が多く載っており興味深く読む事が出来る。著者はカナダ人だが、カナダでは脳の研究が深く行われており研究者も多いことが伺われる。脳に興味のある人には一読をお勧めする。

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