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神聖喜劇 (第1巻)

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神聖喜劇 (第1巻)の商品レビュー

4.0 装丁の良さも特筆モノ。
 表紙で大きく口を開けて怒鳴っている人物は主人公東堂太郎ではなく、言わば敵役の内務班長大前田文七である。そしてこの場面は第1巻でのハイライトシーンの一つで、彼のセリフは
 「職業軍人でもない俺達の 誰が好き好んで五年も七年も こげな妙ちきりんな 洋服ば着て暮らすか うんにゃ、何のためか ようと考えてみよ ・・・」
 1頁まるまる使った大コマで次のページは後姿でセリフの続き。本の裏表紙にはその後姿。その白黒画面に紫の明朝縦書きで「第一巻 神聖喜劇 大西巨人のぞゑのぶひさ岩田和博」名匠鈴木成一デザイン室の面目躍如である。本編の当該場面に至ってこの装丁の素晴らしさを実感した。
 
 
5.0 和製神曲の漫画化
大西巨人の原作を紐解いた事のある人ならこの作品の漫画化という作業がどれほどの大仕事だったかが分かるだろう。事実この作品は十年という歳月をかけて作り上げられ(原作は二十五年)、その仕事は見事に成功の域に達している。しかしこれを読んで原作を知った気になってはいけない。原作に忠実に描かれてはいるけれどやはり奥行きに限界はある。それはまったくこの漫画の評価を落とすものではないし、原作者もこれらの作品は別々の独立した作品として読まれるべきだとも言っているが、やはり原作あっての本書、原作を知っているがゆえに楽しめた部分は少なくない。原作への最良のガイドにもなると解説で中条氏は語っているが、僕としてはやはり原作の後に本書を読まれる事をおすすめする。もちろんガイドとしても一向に問題はない。つまりは、原作を読んでみて欲しいという一言につきる。
3.0 読む人を選ぶ書籍
本屋で第六巻をみつけて立ち読みをしかけたのだけど、「ああ、きちんと一巻から買って読もう」と思わせる重い内容と絵の魅力は素晴らしい。

しかしながら、1−6巻まで読み通すと如何に日本軍がくだらないことをしていたかということはわかるのだけど、ある意味でザッツオールという感じになってしまう。主人公がものすごい活躍をするわけでもないし、何かが大きく変化するわけでもない。ただ、淡々と時が流れていくわけで、その意味では読む人を選ぶ書籍です。

原作を拝読していないので誤解があるかもしれませんが、そう思いました。
5.0 スノッブにはたまらない面白さ
 このマンガ、みんな褒めてるのは知ってたけど、かなり値が張るでしょ。だから購入を躊躇ってたんです。でも、たまたま第1巻を古書で見つけて読んでしまったら、残りの5巻新本で買っちゃいました…ううん。
 物語はゆっくりゆっくり進んでいくんですが、やっぱり5巻から6巻の大団円の部分に、すべてが凝縮されて流れ込んでいる感じですね。長さに意味のある物語なんですよね。いいですよ。なんか版元の幻冬舎には一抹の悔しさも感じますけど。
 先頃、手塚治虫文化賞新生賞と日本漫画家協会賞大賞を受賞しましたね。しかし、背表紙に3人も名前が並んでいたのは、最初はかなり違和感ありましたけどね。
 各巻の終わりに収められている「解題」では、第2巻の三浦しをんの文章が面白かった。三浦しをん、読んでみたくなりました、関係ないけど…
5.0 圧倒され、言葉を失う物語
なんの予備情報もなく、「とにかくすごいらしいよ」というだけの噂を頼りに、一巻を読みました。

読み終わった後も、自分が読んだのが「何」であるのか、よく分かりません。
とにかくものすごい言葉の量でした。

作中の主人公、東堂はあらゆる書物を読破し、その一言一句を全て頭にいれいる、優れた記憶力の持ち主です。「世界は真剣に生きるに値しない」と考えた彼は、徴兵検査において同郷のよしみで見逃してくれようとした医師の情けを振り切り、兵士に志願し、軍隊に入隊します。
そこで起きる様々な理不尽に、彼は言葉のみで応戦してゆきます。怒濤のようにあふれる論理に、全ての人は閉口します。

東堂は、決して声を荒げたりはしません。
軍での数々の理不尽な規律も、よくある戦争マンガのように悲劇的には描かれず、淡々と、つい読み流してしまうような調子で描かれます。
ですから、ストーリーは、全体を通して一種の静けさが漂います。
絵柄はトーンを一切使わず、画面のすみずみまで黒々とペンで覆われて、「10年かけて漫画化した」というこの情熱と、ドラマティックな描き方の一切が押さえられたストーリーは、いっそ対称的で、それがこのマンガの「凄み」を増しています。

原作者、大西巨人は、この小説を25年かけて完成させたそうです。

私は戦争体験がないし、戦争の悲劇も悲惨さも、本当の意味では理解することはできません。ただ、大西巨人と、漫画化したのぶえのぶひさの、あふれんばかりの「鬱屈さ」は、理解できるような気がします。

このマンガは、戦争という、誰が描いたのかしれない、とてつもなく大きく理不尽な物語に巻き込まれた人物の、「あれは一体なんだったのか」という理不尽を徹底して問うているものだと思います。
そのために、膨大な書籍を読破し、引用し、言葉の限りをつくして、主人公はその理不尽さに対峙するのです。これは作者の大西が戦中言いたかったことのすべてを、「これは一体何であるのか」という世間への問いを、主人公に代弁させているのではと思います。

しかしそれは、どんなに言葉を尽くしても語り尽くせるものではなく、それがいったい「何」であるかなど、断定することはできません。多くの死者と悲劇を産み出したものが「何」であるかを説明などできないのです。しかしその「説明することのできなさ」、そして「何」であるのかを誰も知らぬままにただ抑圧されてきた者たちの鬱屈、そういったものが描かれているのではないでしょうか。

私が戦争体験がないのと同様、漫画化したのぶえのぶひさにも、戦争体験はありません。それでいて、軍生活の細部までもを絵で表現するという「無謀」に挑戦するのは、抑圧された者の語り得ぬ言葉の鬱屈さを彼も抱えていて、語りたい、言葉が欲しいという、ただ一つの情熱ではないかと思います。

戦争はたくさんの人から言葉を奪いました。そして今も、たくさんの人が自分のリアリティについて、語る術を持たず、沈黙を強いられています。
そういった人々が何かを語らんとしたとき、それはダムの決壊のような勢いを持って、言葉の放流となって私たちの前に現れます。
私たちはそれにとまどい、それが「何」であるのかを理解できません。言葉はあまりに複雑で、あまりに多すぎるからです。
そして、その言葉の放流を前にしたとき、私たちは「閉口」するのです。主人公の東堂に論破される人々のように。

そして、語っている本人ですら、もはやそれが「何」であるのかなど、分かってはいないのかもしれません。ただ、その語り得ぬ「何」かを、その「説明することのできなさ」を、他者に言葉を尽くして「説明している」のだと思います。
オマエはこれを知っているのか、知っているなら語ってみよ、説明してみよ、と迫るのです。そして誰も説明できずに、言葉を飲み込むしかないのです。

これだけの言葉を尽くしても、決して説明しえない理不尽があり、これだけの言葉を用いて25年かけても昇華されない痛みと悲しみと怒りがある。
極力まで押さえた表現からにじみ出てくるもののすごさに、私はただただ、言葉を失って、圧倒されたのでした。

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