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ミシュラン社の旅行ガイドを模してつくられた、戦火のサラエボを生き抜くサバイバルの書。 本書は、1992年4月から1993年4月にかけてサラエボで執筆 されたもので、ちょうどサラエボ包囲戦の時期に相当します。 うわべだけの人道主義や無根拠な楽観主義を排し、徹底した客観主義のもと、 当時のサラエボの現状を克明に記録している本書を読むと、月並みですが、 安閑と平和を享受できる自分が、いかに恵まれているかを実感させられます。 巻末の解説で池澤夏樹氏が、極限状況にある時こそ、自身や自分の置かれた状況を 正確に客観視し、それを笑いとばすユーモアの視点が不可欠だと書かれていますが、 正直、自分が当時のサラエボに投げ出されたとしたら、とてもそんな余裕はなかった だろうと思います。 しかし、そんな弱い自分と地続きの場所に存在する苛烈な現実への 想像力を持ち続けるためにも、本書は折に触れ、読み返したいです。
砲弾が飛び交うサラエボの街と市民の暮らしを、ミシュラン風のガイドブックの形式で紹介する。 例えば「レクリエーション」の章、「ランニング」の項目にはこうある。「サラエボ市民にもっとも愛されているスポーツ。誰もがこれを実践している。危険地域の住民たちがそうするように、交差点はどこも走らざるをえない」。 「娯楽」の章、「子供の遊び」の項目には、「街に発射される手りゅう弾の数をかぞえること」。「メガネ屋」の項目には「けれども近頃メガネのレンズを買いにくる人はいない。メガネをかけると、なにもかもよく見え過ぎるからだ」。 街は封鎖され、あらゆる施設や設備が破壊され、毎日路上で隣人の市民が撃たれ、交差点は走らなければ狙撃される。 そんな極限状態でも、人々はコンサートを開き、芝居を観て、赤十字病院の一角で展覧会を開催し、手作りで新聞や本を出版し、それを書いた記者が街頭で売り、砲弾で穴だらけの病院で医師は患者を治療している。わずかな文化の残滓が、次の世代への希望の萌芽である。そのわずかな希望から生まれるユーモアには品格がある。運命があまりに過酷でどう抗うのかもわからないとき、正義よりもユーモアが人を救うのかもしれない。 希望をリレーして、世界へ発信させたサラエボのFAMAと日本のP3、それを紹介してくれた都築響一さんに感謝したい。
なかなか入手の難しい状態になっているのが、大変に惜しまれる。 戦争の現実。 戦争下における生活の現実。 死が実に身近に転がっているという現実。 悲惨であるはずのそれらを乗り越えようと、そして生き抜こうと、 このような本を作り上げてしまう人間のタフさ。 本当に人間の「知恵」というものを感じられる本である。