妖艶さをここに見る
三島由紀夫の言葉を借りれば「官能的傑作」と絶賛されるもので、
茉莉さんの代表作だろう。父森鴎外と茉莉さんの関係を思わせるものだ。この「甘い蜜の部屋」は、茉莉さんのライフワークだったのだ。
私はそう思っている。
主人公は少女モイラ。彼女は透明な肌をもつ美貌の少女であり、
次々に男達を魅了し、破滅させるのだが、彼女自身は無垢であり続ける。
彼女を守り、大切にしていく、上品な紳士の姿の裏に魔をもった父林作。
二人の関係は濃密な甘い部屋で紡がれている。
モイラを愛した男達、ドミィトリィ、アレクサンドゥル、天上守安、ピータァ。
夫となったマリウスは、その身を破滅させていく。
「少女」の処女性を考える、妖艶な作品。
最強のロリータ
この作品を読んで、それまで耽美小説に持っていた先入観が見事に崩壊してしまった。
この作品の主人公モイラは耽美小説にありがちな、美貌の持ち主あるいは美貌の人を焦がれる、か弱い人物ではない。異常なほどかわいらしく華奢な容姿でありながら、モイラの内面はおそろしいまでに頑丈である。自分の美貌が、言動が、行動が相手を破滅に追いやったとしても、モイラはまったく動じないし、面白そうにその様子を眺めていることすらある。
義務、道徳、罪悪感から完全に自由の身であるモイラは、自分の好ましいと思うことだけを気の向く時にだけやって過ごすという、現代を生きる私たちにとっては「ありえない」事を日常として生きている。
「21世紀の日本の(平等な)社会」に慣れた人が実際にモイラを見ればかなりの嫌悪感を抱くだろうことは確実である。しかし不思議なことに、この本を読む限りでは間違いなく私たちはモイラの虜になってしまう。モイラを知って破滅していった男たちと同じに。
モイラをはじめとする描写の端々にうつくしさがみなぎっている作者の力は見事というほかはない。
「あとがき」では3人の森茉莉に関する文章が収められており、小説からはうかがい知ることのできない作者の一面を知ることができてこちらも興味深い。