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憲法と平和を問いなおす (ちくま新書)

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憲法と平和を問いなおす (ちくま新書)の商品レビュー

5.0 立憲主義という考え方をもっと広めよう
A「崇高な平和の理念を尊重し、9条は守るべき」
B「いや、現実にあわせて9条は改正するべき」
A・B「じゃあ、お互い議論を尽くして、最後に多数決で決めよう。」
一見、至極真っ当にみえるこのやりとりを、根底からひっくり返して見せるのが本書である。

筆者は立憲主義という観点から、憲法に光を当て、平和主義を実現するための方法を模索する。しかし本書で強調されているのはその結論部分ではない。
まず多数決から説き起こし、一般人になじみがうすく、直感しにくい立憲主義という概念を、先人の思想を踏まえつつ丁寧に説明する。立憲主義の観点から平和の問題を再構成することで、今まで当たり前の日常風景だと思っていた場所から、新たな地平を読者に提示してみせる。私はそのプロセスこそが筆者がもっとも描きたかったことではないだろうかと推察する。
決して初学者には易しくない内容であるが、繰り返し読むに耐える素晴らしい本である。

余談であるが、筆者がその後上梓した新書が、岩波新書、朝日新書という護憲色の強いシリーズであったことから、いつのまにか本人の意思とは関係なく(本望だったというオチもありうるが)護憲派陣営の救世主として迎えられた格好になっているのは、なんとも残念である。
4.0 憲法の問題的思考
この本の特徴は、
1、憲法の規定について、歴史、法哲学、政治学の理論などを踏まえて原理的に考えようとしている。
2、できるだけ価値的判断を排除し、理論的、論理的に分析する。
3、あくまで考えるための材料の提供である。
といった点にある。
したがって、この本は、民主主義や立憲主義、国家、人権などについて原理的に考えるための「考える材料」として有用である。民主主義、国家とは何か、なぜこれらが必要なのかを理解することは、憲法の理解の前提であるが、この本を読んで自分の頭で考えることが重要である。考えさせる本という意味ですぐれている。
 他方で、この本では、憲法は民主政治で決めることを限定する枠組みであると述べてあり、憲法の価値を相対化している。その結果、「最終的に憲法の解釈は裁判所に委ねられるのだから、憲法を改正することには慎重な熟慮が必要である」といった歯切れの悪い結論が出てくることになる。このこの本には分析と解釈、論評はあっても「思想」がない。しかし、それは、「そういう本だからだ」ということになるのだろう。
 「囚人のジレンマ」や「チキンゲーム」の理論は、しばしば政治学で引用される論理であるが、論理は「現実」そのものではない。憲法は、歴史的、思想的に、人類の価値判断、価値の選択の結果であり、必ず、どのような価値観、思想に立脚するかという点を避けて通ることはできない。憲法は理屈だけで論理的に生まれたものではなく、すべて、歴史の生々しい「現実」の中で生み出されたものである。憲法は国民の生活と密接な関係があり、国民は憲法の規定がもたらす結果を実際に受ける立場にあるから、現実に価値の選択に迫られる。したがって、憲法の規定の解釈は、論理や理屈だけではありえない。思想のない憲法はなく、価値観のない思想はありえない。平和の価値についても、論理だけで考えることはできない。それは、現実認識と、価値の選択の問題であり、理屈は選択した価値観の説明でしかない。「なぜ、戦争がいけないのか」は、「なぜ、人を殺してはいけないか」と同様に、理屈だけで説明するのは不可能である。それは価値観、思想、人間観、哲学の問題である。
 全体を通して歯切れの悪さを感じるのは、著者の価値観や思想を積極的に出していないからである。この本は「そのような本である」と割り切ることが必要だろう。
4.0 論理的だけれど
なぜ立憲主義が必要で、その立憲主義と両立できる安全保障制度とはどのようなものかを問う本書は、立憲主義の意義を説くことをメインとするもので、立憲主義と平和の関係をめぐる問いは、その応用問題ということになります。平和主義を扱う本のうち、本書のように立憲主義に紙幅を割くものは、そうは見かけません。まず民主主義について、長谷部教授は多数決という制度に遡ってこれを論じ、民主主義によって決定すべきでない事柄を明らかにします。社会全体として統一した結論を出すべきではない問題があるという前提に立ち、そのような問題については民主主義という枠組を排除するものとして、立憲主義が描かれています。立憲主義の内容と役割は、比較不可能な価値が共存しうる社会を作ることだと整理されます。そこで、公私の区分という手法によって、民主主義で対応すべきなのか、それとも立憲主義で対応すべきなのかが決定されるということになります。平和を維持するための方法として考えられる複数の方法について、それぞれ方法の主張者が暗黙の前提とする国家観・戦争観と方法との整合性、そして立憲主義との整合性が論じられていきます。結論として、本書は自衛のための実力組織を保持することを完全には否定しない選択肢を採用し、これを「穏和な平和主義」と呼びます。憲法第9条は、合理的自己拘束という観点から評価されることになります。民主主義による決定では、社会全体の利益に適うための条件が欠けるので、不合理な結論になる危険があり、あるいは各国が独自に軍備することは,軍拡競争を招くという予想などから、憲法9条による規制が不合理な決定の可能性を根本から否定して軍拡を抑制する役割を担うというものです。非常に論理的でたしかにそうだなあと思わされてしまったのですが、読了して一抹の寂しさを覚えてしまったことも否定できません。東大法学部の憲法学者が自衛隊を合憲だと主張することは、私がこれまで読んできた憲法学者の書籍からすると意外で、時代も変わったのだなあと思わされてしまいました。これが今の最先端の憲法学説のようですし、現実的な理論の需要があるということなのでしょう。
 
5.0 なぜ憲法を守ることが平和を導き出すのか、原理的な回答を冷静に議論する日本人必読書
憲法を少し勉強すると「立憲主義」という言葉に出会う。賢い受験生は「国家権力を制限し、広く国民の自由を保障する考え」と丸ごと暗記する。本書は、そんな東大「予備校」から機械的に官僚を産出するための本ではない。なぜ「立憲主義」という考えが生まれたのか?戦争と平和の関係にいかなる影響を及ぼすのか、さまざまな考えを持つ人が平和に共存して社会生活を営む基本的枠組みとは何か?について、深く怜悧で緻密な議論を展開する本である。憲法についての世界に誇る書物である。軽薄短小なお手軽憲法論がバカ売れし、国民もそれに浮かれているかのようであるが、今一度冷静に戦争、平和、憲法との関係について、本書のような透徹した論理を基にした議論を家族やサークルで共有して議論の叩き台にしていただきたい本である。友人にも是非お勧めして欲しい。ちなみに、憲法9条の政府見解は「個別的自衛権は許容されるが(自衛隊は合憲)、集団的自衛権は許されない(アメリカのお供で自衛隊を派兵することは違憲)」という立場であり、長谷部教授もその政府見解と同じ結論を緻密な議論により導き出す。9条=自衛隊違憲と勘違いされている方は、誤解を改めて欲しい。
5.0 しっかりとした論理の憲法解釈
この本は「平和」より「憲法」の方が主ですね。
九条は最後のほうで、なぜ立憲主義を取るのか、そもそも憲法とはどういうものなのか、などをきちんと説明している本である。

私は九条改正派だし、著者の護憲論には若干疑問があるのだが、それでも護憲派の著者の論は聞くに値する。
立憲主義、民主主義という、論議の土台になっている部分から問い直し、考えを構築していく。憲法学内のホープと言われているだけある。


以下は著者の九条論

著者は、まずゲーム理論により軍事的空白は戦争を誘発することを指摘する。
また、軍隊によらないパルチザン的な抵抗は、軍人と民間人の峻別を不可能にし、戦争を際限なき地獄へと至らせる。
その上で、九条は準則ではなく原理としてとらえるものだとする。つまり、例えば「表現の自由」が認められているからといって、他者の名誉を傷つけたりプライバシーを暴露するようないかなる表現も認められているわけではない。「表現の自由」を憲法改正することなく、プライバシーの権利を認めさせることはできる。同様に、九条も平和主義という一定の方向を示したものであって、文字通り「すべての」軍隊を禁じているわけではなく、自衛のための戦力は認められているとする。
そして、自衛力を持つためならば九条を変える必要はなく、むしろ諸外国に余計なメッセージを与える可能性があるため、改憲の必要はないとする。

ただ、私自身は九条解釈は著者のが妥当だと考えられるが、それによる護憲へはある一つのハードルがあると考える。
それは、すべての人が著者のような九条解釈を行う必要があるということである。
つまり、憲法上は自衛力は認められているが、国民の多くが誤解してそう思っていないならば、政府が自衛力を行使したときに国民の批判が高まり、本当は行使できるはずの自衛力が行使できない、またはしづらい状況になる、という可能性が大いにある。
そして、現在でも自衛隊を意見だとする政党が国会の議席を占めており、下級審とはいえ一度違憲判決が出たことがあるという現状を考えれば、そうした可能性への危惧は決して杞憂ということはないだろう。
著者は「憲法解釈を最終的に決めるのは憲法学者」と予防線を張っているが、政府が見るのは憲法学者の意見ではなくて国民の意見である。なので憲法学者がお墨付きを与えても、政府は国民の意見を聞くよりほかない。
ゆえに、現状のような誤解の多い九条は、いざというときに足を引っ張る可能性があり、変える必要がやはりあるといえるだろう。


九条論議に興味がなくても、憲法に興味があるのならオススメです。

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