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唯脳論 (ちくま学芸文庫)

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唯脳論 (ちくま学芸文庫)の商品レビュー

3.0 なかなかしっぽを掴ませないしたたかな言説。
 「唯脳論は、世界を脳の産物だとするものではない。・・・意識活動が脳の産物だという、当たり前のことを述べているだけである。」(P42)と氏は言う。脳が世界の産物か、世界が脳の産物かという問題は、ニワトリと卵の問題にようで、そういう問題には氏は触れない。つまり「脳だけをとってみても、物質になったり、心になったりする。それが、われわれの脳が持つ性質なのである。」(P43)から、脳は要するに物質でもあり、心、意識でもある。同じ現象でも物質としての側面で切り取るか、意識の面で切り取るかのちがいだけになる、とういうよくある議論である。

それを養老氏は「構造」と「機能」で説明する。「唯脳論は、『心の原因としての脳』を扱うのではない。・・・脳という構造に対応するものしての『心という機能』を扱う。」(P41)したがって構造と機能との対応関係が重要になるというロジックである。言語や時間に対する言及があるけれど、あくまで脳の生物学的解剖学的側面に焦点を当てた主張と見るべきだろう。氏の主張はだからごく慎ましいもので、たしかにすべてを脳に還元できるというものではない。同じ現象を一方では構造のタームで語り、他方では機能のタームで語るだけのことで、ある現象をどちらのタームで語るかは語り手の恣意になるので、厳密に二者を峻別できるのかどうか、あるいは相互依存的連関があるのかどうかを何が担保するのかよくわからない。「構造とは、脳なら脳を、より視覚系寄りに扱うやり方であり、機能とは、同じものを聴覚・運動系寄りに扱うやり方だからである。」(P42)と言っているが、両者に相互作用というものはないのだろうか? それ以上の言及はないのでわからない。このままいくと少なくとも前者は空間的アナログだし、後者は時間的デジタルとなるしかなく、二元論的アポリアは必至だろう。

表題の「唯脳論」というタイトルが誤解を生むのはいたしかたないだろう。森羅万象にあらかじめ脳外の現象とか脳内の現象とかレッテルが貼ってあるわけではあるまい。いちいちの現象にこれは脳外、これは脳内と割り振るのはそれぞれの専門家だが、そのカーソルとはいったい何なのだろう? 

脳と世界は対立していない。だから脳はたんに存在しているのではなく実存している。シナプスは世界へと開示しているし、常に世界を現象させている、その一方シナプスはその世界を脳内化の現象としてもいるのではないか。いっそ現象とは宇宙の果てで起こっていようが、脳の中心で起こっていようがどうでもいいのであって、それをどう割り振るのかという問題にすぎない。

養老氏はそのあたりを承知していて、すべては脳の現象であるという大風呂敷を広げないので、そのあたりは結構うまく身をかわしていている反面、ちょっと肩透かしを食ったかなと思えなくもないなと。
5.0 医学的・科学的 哲学書
 解剖学の専門家である著者が、「脳」という医学的・科学的見地から語るユニークな哲学書。

 本書の主旨は、以下の著者の言葉に端的に表れているだろう。

 「われわれはいまでは脳の中に住んでいる。したがって、その脳を知ることは、われわれの急務である。それが、公式的には、私が唯脳論を書いた動機である。」

 その真意を知りたければ、もちろん本書に目を通すのが一番だが、個人的に興味を持った部分を幾つか紹介する。

 まず言語について。言語を視覚と聴覚の統合と捉え、構造と機能の関係との類似点を指摘する辺りはなかなか興味深い。
 
 「視覚は時間を疎外あるいは客観化し、聴覚は時間を前提あるいは内在化する」

 「構造では時間が量子化され、機能では流れる。構造と機能という、この二つの観念がそもそもヒトの頭の中に生じるのは、いわば脳の視覚的要素と聴覚的要素の分離ではないのか。」

 さらに、「脳化と身体性」という本題に言及。そこで、「社会とは、すなわち脳の産物である」とし、独自の視点から社会を捉えようとする。

 「ヒトは本能が壊れた動物である。それが生きていくためには、本能に代わるものとして幻想が必要である。幻想は各個人のうちにあり、社会はその共通部分を『共同幻想』として吸い上げることによって成立する。」

 「われわれはいまでは脳の中に住んでいる」

 「社会は脳の上に成立し、個人は身体の上に成立する。」

 共通認識としての社会はまさに「脳」による産物であり、対して個人を特徴づけるのは「身体」。脳化を善・進歩とする現代の社会では、身体性が抑圧され、身体=死体は嫌われ、排除される。そこには「個人=身体は滅びても、脳=社会は滅びない」という思想が横たわっており、死に向き合おうとしない社会性を問題視する。

 本書を読み進むと、映画「マトリックス」を思い浮かべるが、敢えて映像化するなら大きなずれはないように思う。著者は「唯脳論」によって脳化社会を肯定しているわけではなく、脳の肥大化により排除されつつある身体性を取り戻すべきであることを主張している。
5.0 良い
これほど明快に一元論が語られたことがあっただろうか。すばらしい。
4.0 脳がすべてという誤解
脳から見た世界を描いています。けれども脳がすべてと言いたいわけではなく、思考の中心に脳を置いて話を進めた場合になにがわかるかを書いたものです。脳がすべてなんてバカな話はない、と対談で養老氏は語っています。
1.0 いずれにしてもガッカリ本
唯物論に徹しきれない者の目を覚まさせるような科学的知見や哲学的思索を期待したが、
音楽的センスのなさには目をつむるにしても、
行間にF・ジャコブ「可能世界と現実世界」(1982)が透けて見え、
期待はずれを超えて寒い。同著者の以後の本を読む気力が失せた一冊。

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