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敗戦後論 (ちくま文庫)

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敗戦後論 (ちくま文庫)の商品レビュー

5.0 ようやく時代が追いついてきたのかも
この本で著者が言いたかったことは、「あとがき」に最も簡潔に書き表されているように思う。

かつて、高橋哲哉の激烈な批判に端を発した「歴史主体論争」との関連で少し関心を持ったのだが、どうもあまり真面目に読んだ記憶がない。おそらく当時の私には、著者が言いたいことを理解するアタマがなかったのであろう。

多少のナショナリズム論や死者論をかじった今になって改めて読み返してみると、少なくともかつてよりは著者の議論についていけるようになった自分に気がつく。それはおそらく、汚れた自分を汚れたままに引き受けつつ、それでもなお考えるということに、多少慣れてきたせいかも知れぬ。あまりに潔癖で正しすぎる思想は、不潔なるもの、意に染まぬものを切り捨てて恥じることがない故に、それらからの反動を招き、永遠に抜け出せぬ輪廻の業を背負わざるを得ないのである。著者や解説の内田樹が言っているのは、共同体の一員たる自らにまとわりつく汚れや暗闇をも取り込んでこそ共同体から公共性に開かれる通路の開鑿可能性、そのことではないのか。

なるほど確かに、当時著者に投げかけられた「批判」は、ほぼ全てが的を外しているどころか、まったくあさっての方向を向いていたわけだ。

内田樹のような論者が本を量産する昨今ならば、かつてとはまた違った受け止められ方をするかも知れない。そう思わせる一冊である。
5.0 高橋哲哉との論争が白眉
謝罪の主体統一云々の議論は正直その前提につまづく。
国家としての責任は既に果たした、と考えるものにとって
「真に謝罪」なる前提自体が架空の問題でしかないからだ。
いまだに謝罪の問題が存在するという土俵を前提にする以上
あとは高橋のように「原理主義者」になるか、加藤のように
それにサブイボを立てて主体の統一をめざすか、いずれしか
ないだろう。その意味で両者の論争は必ず通るべき路には違
いなく、戦後生まれにとって必読の一冊。
5.0 誠実さ
 この「敗戦後論」は発表当時、非常に大きな話題(賛否両論、否が多かったが)となったが、実際私もこの論文は相応の重要な問題提起を含んでいると思う。特に戦争を直接は知らない私にとっては、考えさせられるところが多かった。
 これによって加藤氏は、「ネオナショナリスト」呼ばわりされることになったが、問題となった「自国の戦死者を先に追悼する」ということについて、私は戦前の日本と私たちの繋がりを確認する、という風に理解した(というかそうとしか読めない)。そもそも、戦前の日本が私たちと切り離されているとしたら、私たちにアジアの人々へ謝罪をする権利があるだろうか。彼があえて「われわれ日本人」という主体を立ち上げなければならないと考えるのは、あくまでも順序の問題であると思う。
 
 ところで、この本の本当の読みどころは次の「戦後後論」ではないだろうか。ここで、彼は自らの専門である文学を通して、私たちが、ある「正しさ」(それは戦争責任の問題も含む)について「そんなこと知るか」という権利を認めて、その上で、そこを出発点にして「本当はそれじゃ駄目なんじゃないか、と(誤りうるかたちで)考えればいい」と言っていると思う。
 全ての人が始めから「正しい」わけではないのだ。たとえ頭ではわかっていても、「正しさ」を本当には実感できなくて、しかもその「正しさ」が当然のことのように語られることに悩んでいた私は、この「戦後後論」に随分勇気づけられた。
「正しさ」の上からの説教ではない、私たち一人一人違う出発地点を認め、後押ししてくれる温かさと、誠実さが「戦後後論」にはあると私は思う。
 いずれにせよ、読んで損は無いと思う。
 
2.0 底の浅い議論
「敗戦後論」は大岡昇平の言動を巧みに利用して、斬新な議論を提供している点が長所だが、残念ながら自説に説得力をあたえるものが、大岡の言動の主観的解釈しかないという事実が致命的な欠陥となっている。昼メロみたく底の浅い二元論的議論でしかないのが残念。ていうか議論の土台と展開そのものが著者の加藤の評論家としての限界をはっきりと露呈している。もっと骨太の「敗戦後論」が存在しなければいけない。加藤程度の議論で問題が解決できるほど世の中が甘かったら、最初から何の問題もないわけだ。その意味で、加藤が効果的に大岡昇平の言動を要約しているように、加藤自身、評論家として「恥を知らねば」ならない。

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