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ニッポン硬貨の謎

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ニッポン硬貨の謎の商品レビュー

5.0 クイーン生誕100年に刊行されたパスティーシュ小説
1977年のエラリー・クイーン(フレデリック・ダネイ)の初来日。そして、
ミステリ作家の若竹七海が、かつてバイト先の書店で遭遇した毎週
土曜日に来店しては、五十円玉二十枚を千円札と両替していく男――。

この二つの事柄をモチーフに、作家クイーンが執筆したミステリの
未発表原稿を、北村薫が翻訳したという体裁を採った、早い話が、
北村薫によるクイーンのパスティーシュ小説。


若竹さんが体験した前述の《日常の謎》は、かつて同僚作家がそれぞれに
謎解きを試み、一般公募までされました(『競作 五十円玉二十枚の謎』)が、
北村さんは当時、それに参加されませんでした。

本書は、その謎に対する北村さんの遅れてだされた「解答」でもあります。

北村さんは、些細な《日常の謎》を連続幼児殺害事件という陰惨な大量殺人に接続し
抽象的かつ宗教的な《見立て》の構図を描き出すことで、じつにエレガントな解法を
提示されています。

そうした、あまりにも神秘主義的、そして、いかにも後期クイーン的な《見立て》に対し、
違和感をおぼえる人もいるとは思いますが、後に北村さん自身が語るように、あくまで
それは「天上の論理」のパロディによる誇張にすぎず、真に受ける必要はないのです。


そして、本書のもう一つの大きな柱にあたるのが、中盤にある『シャム双子の謎』論。

評論といっても、ヒロインの口頭によるプレゼンという
形式が採られ、内容も決して難解ではありません。

また、クイーンをまったく知らない北村薫ファンなら、一つの
うんちく話としてスルーしても、まったく問題ないと思います。


ただ、そうはいっても、クイーンを知っていたほうが、より楽しめるのもたしかなので、
『シャム双子の謎』と、できたら、クイーン後期の作風が窺え、本書でも何度か言及
される『九尾の猫』あたりを、余裕があれば読まれておくことをオススメいたします。


2.0 クイーンファンは楽しめると思いますが・・・
 クイーンについて詳しい人にはとっても面白く読める小説だと思います。
 それほど詳しくない私にとっては、期待値があまりに高かったために正直がっかりという展開でした。「ミステリー小説」としてはがっかりですが、クイーンファンにとっては作家論、作品論としても読めるので、これほど楽しい小説はないと思います。
5.0 クイーン作品を全部時系列的に読み直したくなる、愛情と敬意にあふれたパスティーシュ
1970年代後半、来日したエラリー・クイーン(探偵であり作家の虚構人物の方)が解決した事件について記された未発表原稿が発見され、それを北村薫氏が翻訳したという体裁。

本格というのはダブルミーニング。本格ミステリの草分けの一人であるエラリー・クイーンの国名シリーズを扱うということで、ジャンルとしての本格。そして、未発表原稿という体裁のパステイーシュの王道な手法をとりつつ、実にクイーンスタイルを踏襲し、クイーン論まで展開してしまうという、ファンノベルのスタイルとしても本格派なのである。

脚注のお遊び(これは、作中で展開するクイーン論にも呼応している)や、文体の模倣...初めて日本を訪れた外国人目線のズレや、作品が固まるまでに派生してしまった事実誤認の表現が、脚注のツッコミともあいまって、実にいい塩梅にリアル...など、未発表作品の翻訳の雰囲気が良く練れている。

一方、北村薫としての作風も失うことなく作品は構成されている。北村氏といえば、ドラマ部分での人間描写の鋭さも魅力の作家である。美や温もりなどを馥郁たる描写で紡ぐ一方、鮮烈なまでのドス黒さを一閃させる事もできる。

本作では先述の通り、ある種の人には神にも等しいエラリー・クイーンが日本にやってきたらというifのシチュエーションを設定し、神様と幾許かの時を共に過ごすのみならず、ラブコールと同義の作品論を開陳したり、極めつけは共に難事件に立ち向かうという、願望従属のファンタジーである。その、淡い温もりのある色調の風景に、幼児連続殺人事件という漆黒の悪意が吹き抜ける。

この事件の選定の趣味が、なんとも北村節だなぁと思ったのは俺だけではあるまい。

以前創元社より上梓されたアンソロジー『五十円玉二十枚の謎』に対する、エラリー・クイーンの回答という趣向も楽しい。敬意と愛情に満ちた、だが、才能無くば実現不可能な、極上のパスティーシュ作品である。
1.0 本格ミステリ大賞受賞作
本格ミステリ・クラブ会員の投票によって選ばれた本格ミステリ大賞受賞作。会員が自分たちの会長の作品を記名投票で大賞に選ぶという仲良しクラブばりばりの大賞受賞作。これで本作がすばらしければ言うことはないのだけど、仲良しクラブ大賞受賞作にふさわしく、幼稚な内容なので残念というしかありません。本格ミステリ大賞という賞がどれだけ無内容の駄目賞なのかということが本作を読んで、よくわかるし、その選ばれ方(会員が会長の作を記名投票で選ぶという恥ずかしさ)を見ても、よくわかる本。日本ミステリのレベルの低さを思い知らされる残念な本格ミステリ大賞受賞作でした。
3.0 北村薫がのびのびと好きに書いている姿が目に浮かぶ怪作
 1977年に来日したアメリカの名探偵エラリー・クイーン。東京滞在中に、幼児ばかりを狙う連続殺人事件が発生する。
 同じ頃、女子大生の奈々子はバイト先の書店で奇妙なお客に遭遇する。50円硬貨を20枚握り締め、それを千円札に換えてくれるよう奈々子に頼むのだ。
 この二つの事件がやがて一つになって…。

 日本を舞台にしたこのエラリー・クイーンの未発表原稿を、北村薫が十年の歳月をかけて翻訳した、という設定のパスティーシュ小説です。
 怪事件を名探偵が鋭い推理で見事解決していく、という物語の展開を楽しむための小説とはいえません。事件そのものはあっけなく解決してしまいますし、しかもクイーンが説く真相は、必ずしも多くの読者の納得を得られるようなものではないと私は考えます。

 むしろこれは推理小説の読み手として深い見識と筆力をもった北村薫が、パスティーシュ小説の装いを用いて、クイーンのコアなファンに向けて贈るエラリー・クイーン作家論といえる作品です。クイーンの「シャム双子の謎」や「緋文字」、さらにはヴァン・ダインの「僧正殺人事件」に関する北村自身の論考を、主人公の奈々子たちの口を借りて語っています。
 そして本書全体が若竹七海ほか「競作 五十円玉二十枚の謎」(東京創元社)への北村薫の遅ればせながらの参加作品という意味を持っています。
 ですから、よほどの推理小説ファンでなければ本作品にどっぷりと遊ぶのは難しいかもしれません。

 それにしてもクイーンと奈々子のコンビが「空飛ぶ馬」以来の円紫さんと私に重なって見えてきました。北村薫はあのシリーズの続編を書く意思をもう持っていないと語っていますが(別冊宝島「北村薫Complete Book」でのインタビュー)、私はそのことがとても残念でなりません。

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