冬の堕天使
矢吹駆シリーズ1作目。本シリーズは推理小説として刊行されていますが、思想・哲学が前面に押し出されています。私見ですが、筆者の思想・哲学を表現する手段として推理小説の形態をとっていると云っていいでしょう。 舞台は1970年代のフランス。首斬り死体を発端とする事件を、フッサールを筆頭とする現象学的直感を用いて推理?します。特別な推理をする訳ではなく、調査で判明した多くの事象から組み立てられる無数の論理的解釈を、直感から導かれる事件の本質を辿って紐解いていくというものです。
「バイバイ、エンジェル」で扱われている主題は革命論と観念論であり、矢吹駆と犯人が思想対決を繰り広げます。一言で云うと、人は革命という名の観念に憑かれ人を殺す、その是非を問う、といったところでしょうか。
語り手が普通の人(主にヒロインのナディア・モガール)なので、別に小難しい事を知ってたり考えたりしなくても、推理小説として十分に楽しめる完成度です。ですが、事件が起こって探偵が乗り出して解決するだけのトリックネタ重視の作品とは一線を画していますので、ただの推理小説として捉えるだけでは惜しいと思います。
本格?
初めて読む矢吹駆の登場作品でした。「不思議な日本人青年」とはいったいどんな探偵なんだろうと思いましたが、成程、確かにキ印じゃかたづけられない人物。意外にも好きになりました。
ただ、本格ミステリとしてはどうかと思いました。トリックはよくもまあ、考え付いたものだと感心させられましたが、それをカケルがどうやって解いたのかはさっぱり。カケルのいう現象学推理というものは、中盤あたりは面白かったものの謎解きの場面ではらしきものが全くなかった気がする。事件を構成する因子が多すぎて読者に解けるはずがないし、彼の推理には証拠のかけらもない。本格ものには見えません。 というわけで、ミステリとしては好印象を持ちませんでしたが、ラストの革命論はなかなか上手く出来てると思います。この部分がこの作品を他の凡百の新本格ミステリとは別格のものしています。あまり読者に好かれなさそうな人物を語り手にすえた理由も最後まで読んでわかりました。全体的に見てこれはラストに重点を置く作品でした。