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トマシーナ (創元推理文庫)

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トマシーナ (創元推理文庫)の商品レビュー

4.0 猫を巡る人々の心温まる物語です
トマシーナはこの物語の語り手となる猫の名前。
トマシーナの周囲の出来事と人々の心の動きを描いた、心温まる物語です。

獣医であるマクデューイ氏は、獣医でありながら動物に愛情を抱きません。
愛娘が大事にしていたトマシーナが病気になったときも、
彼は安楽死させてしまい、娘は心を閉ざして次第に衰弱していってしまいます。

突然訪れた悲劇に悩む彼は、動物たちと暮らす赤毛の魔女との出会いをきっかけに
変わっていき、物語もハッピーエンドに導かれていきます。

猫が大冒険するような物語ではありませんが、
猫自身はもちろん、猫に接する人々の描写は猫好きには楽しいです。
5.0 死に至る病からの帰還
解説の河合隼雄先生の言葉を引用させていただければ、「『愛情いっぱい』に子どもに接しながら子どもの『たましい』を深く傷つけている人は多い」という。

7歳の娘メアリ・ルーは、亡くなった母の代わりともいえる猫のトマシーナを獣医である父によって安楽死させられてしまう。それはメアリ・ルーにとっては単に猫を失うだけではなく、父をも失ってしまうことに他ならなかった。わずか7歳にして「全て」を失い、「絶望」≒「死に至る病」にまで追い詰められていくメアリ・ルー。現実であれば「たかが猫くらいで」と片付けられてしまいそうな問題が「物語のなかに存在することで」激しく生命をもって訴えかけてくる。メアリ・ルーの絶望も、孤独なマクデューイ氏(自分勝手ではあるけれども、もちろん悪意があるわけでもなく、実に深く娘を愛している)の苦悩も。
しかも作者は娘にその絶望をもたらした張本人である父マクデューイ氏をも救うことでタマシーナも娘も救うことに成功している。すごいとしか言いようがない。

個人的には、まるで今まで言葉にならなかった何かをかわりに物語ってもらったような不思議な感覚。世界の全てのメアリ・ルーと全てのマクデューイ氏に読んで欲しいと切に願う。
5.0 話に翻弄されました、いい意味で。
トマシーナの語りで進んでゆく最初の辺りはこの調子でずっと続くのだろうか、と少し不安に思った。同じギャリコの「猫語の教科書」のように進んでいくのかと。ところがトマシーナが死んでしまった辺りから話は重苦しい雰囲気に変わっていく。心を閉ざしてしまう少女、自分中心の獣医の怒りや不機嫌さが前面に出て来始めると、これはどうなっていくのだろう・・と読み進まずにはいられなかった。
特に子供が苦しんでいる姿は胸が痛む。体に何も悪い所がなくても心が体まで衰弱させてしまうと言うことが、悲しいほどに伝わってきた。
父親である獣医は長い間それに気づかない。娘の衰弱によってほんの少し自分以外のそして娘以外の人々にも関心が向き始めるのだが・・・。
いったいどんな形でこの話が終わるのだろうと、まったく予想が付かなくなり、ページもなくなる、と言うところまで暗い雰囲気がつづく。神に祈り、途中知り合った魔女と呼ばれる女性の力も届かずに終わるか、と思った頃急に光が差し込み、大団円を迎えるのだ。
事が解決した時本当に心からほっとし、よかったねと本の中の人々に言いたくなった。最近読んだ本でここまで話に引き込まれ、やきもきさせられたものはない。人々の会話の端々にも考えさせられるものがあり、読んでよかった、と思わせるもの。
4.0 主人公の猫が死んじゃって、どうなるの?
『トマシーナ』それは、この本の主人公(?)の猫の名前。
この猫が「語り手」となって物語が進んでいくのが、なんとも面白い。
しかし、この猫、あろうことか、途中であっさりと死んでしまう。
そして突然、別の猫が「語り手」となって物語が続いていくのだが...

正直言って私は、この主人公の猫ちゃんが死ぬ場面までは、
『あ~ 退屈な本』と思った。

しかし、猫の死後あたりから、グイグイと物語に引き込まれていく。
読者は、まんまと、原作者ギャリコの手法にのせられてしまうだろう。

ちょっと『かったるい言いまわし』や『クドクドと続く表現』が
知らず知らずのうちに、快感にさえ変わっていく。
そして、読み終わった後は、『あ~ いい話だった』と、快い気分に
ひたれる事になるだろう。

医者になる夢を絶たれ、妻を亡くした獣医マクデューイは
神をも信じられず、動物への愛情も持てない。
そのひとり娘のメアリー・ルーは、母を亡くした寂しさから
飼い猫のトマシーナを何よりも可愛がっていた。
が、父は愛猫を安楽死させてしまう。 愛猫を殺されたことで
心を閉ざしてしまう娘は、気の病で次第に衰弱していく...

この状況を、救ってくれるものは誰か?
そして物語は、父と娘と、その取り巻きの人々の心の動きを
細やかに綴りながら、ハッピーエンドへと向かっていく。

ポール・ギャリコの傑作である。
(猫好きの方には、猫の気持やしぐさの描写が、たまらなく愉快だろう)

4.0 スコットランドを舞台にした、愛の奇跡の物語
久しぶりに再読して、今まで抱いていた作品の印象が変わりました。これまでは、トマシーナという猫が魅力的に描かれた物語と、そのイメージが強くありました。そういう側面もあるのですが、本書の核となるテーマはもっと別のところにあるんじゃないか、これは心に傷を負った男と、彼がこの世で何よりも愛する娘が、愛の奇跡によって救われる物語なんじゃないか、そう思ったんですね。マクデューイ氏という動物嫌いの獣医が、娘の愛を失って苦悩する姿、彼がひとりの女性と出会うことで人間としての温かさを取り戻していく姿、そんな彼の姿が切迫した調子で描き出されていたところ、そこに本書の一番の読みごたえを感じたのです。

愛するトマシーナが父親の手によって殺された時、「トマシーナァァァァァ!」と絶叫するメアリ・ルー。それ以後、父親を心の中で抹殺したメアリ・ルー。彼女が深く傷つき、この世の中の出来事から心を閉ざすようになっていく姿は、見ていてどうにも痛ましく、やり切れない気持ちにさせられました。

親友のアンドリュー・マクデューイを救おうと、彼の心にそれとなく働きかけていくアンガス・ペディ牧師。《赤毛の魔女》《変人ローリ》と呼ばれる女性とともに、彼の存在が大きかったこと、その人となりが魅力的だったのも心に残ります。

山田蘭さんの訳文、なかなか見事だと思いました。特に、トマシーナが語る章での生き生きとした調子の文章と人称代名詞の用い方に、訳者のセンスの良さ、細やかな気遣いを感じました。

原題は、Thomasina 1957年の作品。

猫の名前がついた物語では、同じ著者の『ジェニィ』(新潮文庫 ※私が読んだのは、矢川澄子訳の『さすらいのジェニー』大和書房)とともに、深く心に残る、忘れがたい名作です。

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