類書の中ではピカ一
本書は、通産省出身の著者が三年間の香港駐在期間中に行った企業調査の結果をまとめたものだが、どの記述も著者自身が中国のものづくりのメッカである珠江デルタや長江デルタ、ハイテク基地の北京中関村などを精力的にまわった経験に基づく、鋭い洞察に裏づけされており、中国経済の入門書としてもお勧めできる本である。 この本が優れているのは、単に中国経済の躍進が「驚くべきものだ」と言うだけではなく、それがどういう点で「驚くべき」なのか、ということをちゃんと説明している点にある。例えば、中国の強さの秘訣として誰でも挙げるのはその人件費の安さだ。しかし、途上国での組み立て加工が進んだ現在では、工業製品の生産コストに占める人件費の割合は普通せいぜい数%にしか過ぎない。国企業の強みは、むしろ工業製品を作るための部品メーカーをほぼ一箇所にそろえ、しかもそれだけではなく一つの部品についていくつものメーカーがひしめき合う、一大産業集積地の中に立地することで、部材費コストを大幅に引き下げている点にあるのだ。
そこでは、「途上国の生産は労働集約的」という今までの常識がもはや通用しないような形での生産が行われている。つまり、生産ラインではかなりのハイテク機材が使われているのだが、そのメンテナンスや、製品検査などで安い労働力をフル活動させているのだ。そのようないわば先進国と途上国の「いいとこ取り」をしたような生産体制をとることが、IT産業を中心とした変化の激しい市場への適応を可能にしているわけである。本書では、こういった中国企業の実力」が、迫力ある実例をもとに極めて説得的に描かれている。中国経済を扱ったビジネス書は山のようにあるが、その中でも本書は内容の最もしっかりした本だといっても過言ではないだろう。