知は力である!?
夢は一種の精神病です。精神病者は不合理な夢の世界を現実に生きているのです。それならば、夢を合理的に解釈できれば、精神病は私たちに理解可能なものになる筈です。そして、不可解な夢を合理的な言葉で説明できるように、ある症状に苦しんでいる患者がその症状を生み出しているコンプレクスを言葉にできたとき、病から癒えることができる、とフロイトは言います。明晰な認識こそが人を正常にする、知は力なり(スピノザ)、という訳です。ーーでも、私たちに知られる無意識自体が、意識にのぼった時点で既に変形・歪曲されたものですから、私たちは決して無意識の<全貌>を知ることができません。夢の分析に終わりはない、ともフロイトは考えていました。
フロイトは徹底したリアリストです。同じ課題を繰り返し提出し、分析し、説明し、推敲し、修正し、定義し直します。マルクスにも矛盾をそのまま提出しながら現実に近づこうとする傾向は見られますが、マルクスは人間のあるべき方向を示そうという努力もしています。一方フロイトは、ただ現実世界で生きる人間の赤裸々な深層心理をえぐり出すだけで、甘い理想は決して口にしようとしません。--人間を理解するために動物に対する以上の手段は必要ではない! どうして他生物の存在意義を問わないのに、人間の存在価値だけを問題にするのか? 人間は意識(自我=私)によって生きているのではなく、無意識(エス=それ)によって生かされているのですから、人生の意味を問うことなど本来不要なのです。人間は他の生命体と同様、もともと無目的に存在しています。
フロイトの方法によって、人類がなぜ殺し合うのかを明らかにできるかもしれませんが、だからといって、その分析が、人類の戦争放棄の可能性を示すことを意味しません。ーー私にとって、フロイトほど恐るべきニヒリストはいません。