鬼才を描かせて右に出るもの無し
時は19世紀後半。
マンハッタンに摩天楼が聳え立つ少し前のNYが舞台。
鬼才の栄光と転落を描いた傑作長編小説だ。
今までも中篇でアニメーション作家や人形造形家を主人公にして同系統の話を書いていたが、今度はなんと「世界」を丸ごと造ることを夢見て壮大なホテルを建造していく青年実業家が主人公。果てることない主人公の野望を肥大化し暴走する現代社会に置き換えて寓話と読むも良し、毎度おなじみの幻想的かつ緻密な描写を堪能するも良し。
長編のせいか“物語る”ことに、いつも以上に力点が与えらていて絶妙のバランスに仕上がっている。
読書の喜びを心から感じさせてくれる、地味なのに破天荒な傑作。
あるアメリカ人の夢のかたち
何かに取り憑かれた人間を、丹念にかつ繊細、優雅に描く作家、ミルハウザーのピュリツァー賞受賞作。今回ミルハウザーが取り組んだのは、「夢」である。父の経営する煙草屋を手伝うマーティンは、生まれながらにして商才に長けた少年。まじめさ、律儀さに目を付けたおとなたちによって、やがてホテル経営の世界へと導かれていく。とんとん拍子で出世していくマーティン。それと並行して開店させたランチの店も上々だ。
大金を手にしてもマーティンの夢をとどまることを知らない。それもそのはず、彼が夢見たものは「成功」などではないのだから。マーティンのように夢を実現させていくことは困難かもしれないが、夢を見続けていくことは僕にもできるに違いない。