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以前、角川文庫などで『アメリカ』として知られたものの作者手稿による新訳。面白い。 いきなり「女中に誘惑され」、その女中に子供が出来たために、アメリカに旅立って自由の女神像を拝む冒頭から、下船する間際に上院議員の伯父に出会い、上流生活からアメリカ生活をスタート。しかし、急転直下、その伯父の気分を損ね風来坊に落魄れ、エレベーター・ボーイの職を得る展開が、お話としても面白く、そのくせ淡々としたカウリスマキの映画を観ているようだ。しかも、カフカには珍しくニューヨークやその郊外の匂いまで漂ってくる。 死後の焼却を願っていた作者にしてみれば、全ての長編が習作だったのだから、本作品などは習作も習作、ひょっとするとカフカのものとわからなければ、今日の出版すら覚束ないものかもしれない。しかし、不条理などといった手垢にまみれた言葉ではなく、まさにリアルな手触り、「他者」の気配がムンムンする。原田義人訳の『アメリカ』よりも、池内訳は全体的に緩い。それが、独特な雰囲気を醸し出していると、ドイツ語を解さない評者は勝手な感想を抱いた。 池内紀訳では、カネッティの『眩暈』が秀逸であった。勿論、これは原作の素晴らしさだろう。私見では『眩暈』はカフカの『城』を超える世界文学である。