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自死という生き方―覚悟して逝った哲学者

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自死という生き方―覚悟して逝った哲学者の商品レビュー

3.0 いまいち腑に落ちない
著者は充実した人生を送った老人が虚無感にとらわれることなく
主体性と自尊心をもって自死することを肯定しています。
それを自らの潔さの証明のために切腹する武士道精神に関連させて
死に方の多様性への認識を広げようとのことですが、
幸福な老人に限ることはないのではと思います。

不遇続きの人生でも、極みを感じたとはいえない人生でも
積極的な意思と潔さがあれば自決として評価すればどうでしょうか。
厭世観や虚無主義を随分と厭われていますが
一時的であれば誰でも心に抱くのではないでしょうか。

共同体からの承認と自死する本人にとっての心意気が
両立するとは限らないと思うのですが、その場合は
自決ではなく自殺と認識されることも多そうですね。
自決と自殺の区別の付け方が少し釈然としない感じを
受けました。

5.0 伝えたいことをうまく伝えている
この方の著作物を読むのは初めてでした。
とても文章のうまい方で、取り扱っているテーマが割と特殊なものであるにも関わらず、すいすいと読めました。
事前の予想では、「自身の自殺願望を肯定するための理論武装を開陳されてしまうのかもしれない」と、やや警戒気味だったのですが、決してそんなことはなく、他者に対して分かり易く説明しようという意思が隅々にまで貫かれており、絶筆となったことを前提として読まなければならない本書ではありますが、とてもあっさりとした読後感が残ります。
私は、これは逆に、「自らの生命を掛けた哲学を、できるだけ多くの人に理解して欲しい」という強い願いからくる、むしろ執念にも近い細やかな配慮であるかの様な気がしました。
あくまでもフラットな立場から自説を発信しようという気概が、本書に読者に何かを押し付けることをさせず、終始、とてもコントロールされた静かな文章が続いていきます。
本書は自殺願望のある方を後押しするものではないと思います。
人間の尊厳や自由ということについて深く考えるきっかけとなる一冊だと思います。
4.0 死の受容について
死を受容するのか、未練をもって意思的に生き続けようと思うべきなのかは難しい問題です。

以前に「命のバトン」というテレビドラマについて書きましたが、小林稔次が演じる主人公は手術をすれば直る可能性のある疾患を抱えながら、死を受容して手術を拒否します。

祖父と孫娘といってもいいくらいの年齢差がありながら奇妙な友情を持つヒロインの南沢奈央(こっちが主人公なのかな?)は「生きる意欲を持つべきだ!」といいますが、小林稔次の幼馴染み伊東四郎は、「死を受容するのも、生に未練をもって生きようとするのも本人の選択で、アイツがどちらを選ぼうがオレはその意思を尊重する。例えその選択がオレの選択と違うものであってもね。」と、小林の選択を擁護します(セリフはうろ覚えです)。

若い南沢奈央には何故幼馴染の伊東四郎が小林稔次の選択を否定しないのか、励ましてあげないのか理解できない、ようでした。

「自死という生き方」の著者須原一秀氏は、葉隠れの武士道精神である死の受容を肯定しています。覚悟というほど大げさなものではなく、日常的な平常心で「いつでも死ねる」と思うこと、そう生きること、ことあらば平然と死すことを説いています。

それは老残を晒すことを潔しとしない須原氏の「思い」なのでしょう。

その「思い」は痛いほど伝わります。
伊東四郎のように、その選択を尊重します。否定なんかできません。

私はおそらくそういう選択はしないでしょうが、それは須原氏の「思い」の否定などではなく、ただただ私に意気地がないからであることを認めます。
4.0 自死の肯定的な理論構築
厭世でも虚無でもない、自らの意思による自死を実現するべく、自死に対する
自らの考察を加えて本書をまとめ、それを実践することで理論と実践を体現した
哲学者の遺稿になります。

三島由紀夫、伊丹十三、ソクラテスを例に取り、彼らが選んだのは自死であり、
「未練」、「苦痛」と「恐怖」を克服した積極的死と位置づけます。
その三者の背景にある考えを推察し著者との思想と対置しながら本書では「人生を
肯定する自死」を選ぶに相当するだけの理論を構築しようとします。

そこで展開される理由付けには、著者が自死の日程を予め決めていたことから
時間も限られ、論考が浅く、言い回しの稚拙さや強引さが伴っていますが、著者が
述べたいことは十分に伝わってきます。

本書の思想の是非はともかく、世の中に流布している死に対する考え方に一石を
投じ、その死を受容する姿勢について考察を加えた点からは一読に値する書であると
思います。
4.0 言葉と行為の隷属関係
 昔『完全自殺マニュアル』という本があった(今でもあるだろう)。自殺の方法や実例を列挙し、読者を自殺へと誘うハウツー本のパロディである。実際にその本を参照したと思われる自殺者が続出し、販売制限などもされて一時期マスコミを賑わせた。だが読んでみれば分かるが、あれは自殺など考えたこともない人間が、読んで大笑いするための本である。著者もそのつもりで書いており、だから例えば著者が自殺もしくは自殺未遂をしたなどという話は聞いたことがない。
 だが本書は違う。著者である哲学者須原一秀は、この本を執筆後自殺した。
 人生は高が知れており、適当なところで自死を選んだ方が、その後の悲惨な死を待つよりも賢明である、という本書の思想を恐らくは実践した。ある意味では筋が通っていると言える。しかし筋を通した結果である自死という行為も書かれた書物も、お互いの引き立て役にとどまっている。
 哲学者は言葉に自由を与えるために行為と決別しなければならない。須原にはそれができなかった。その結果須原の言葉も行為もお互いに縛り縛られ、どちらも自由を獲得できなかった。自由に選んだはずの死は自由ではなかった。須原の行為は須原自身の言葉(思想)の奴隷になっていた。そして須原の言葉も行為を前提としていた以上、ある種の狂気に欠けていた。須原の自殺という事実があって初めて人目を引く本書は、自殺など考えたこともない著者による『完全自殺マニュアル』に完全に負けている。「本当にあったこわい話」が、フィクションのホラーに決して勝つことができないのと同じように。
 言葉と行為のいずれも犠牲にできなかった須原は、自分の命を犠牲にせざるをえなかった。あるいは言葉と行為のはざまで圧死した。残酷な現実を垣間見させてくれる本ではあると思う。

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