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この本は、ノン・フィクションなのはわかるが、果たして「手紙」という形をとった「エッセイ」なのかは、判断しがたい。 ただ、女性の伊勢さんが「僕」という男性になっていて、「Y」という友人に宛てた手紙として、パリで偶然出会った 「ルリユール」という本を修復する職人の生活をスケッチさせてもらっている。絵の中で、伊勢さんは黒い犬になったり、若い青年になったりと、その姿は常に変化している。 私が一番 興味を持ったのが、絵本 「ルリユールおじさん」のエスキス。ソフィーは、植物図鑑の治し方を学校の先生や母親と思われる人に聞いているが、実際の絵本では、それが省かれている。私はフランスで生活したことがあるので、それを「独立心旺盛なフランスの子供らしい」と思っていたが、伊勢さんは物語を作っていくうえで、できるだけ自分が「ムダ」と思ったものを省くのだ。だから、シンプルなその文章と挿絵は、人の心を打つし、また、「よくわからない」とも思う読者もいるだろう。 だが、この本で、私は「伊勢 英子」の創作の「スタイル」を見た。
私がまだ学生だった頃は、ちょうどポケベルからPHS・ケータイへ、位の過渡期の頃。 もちろん電話にメール機能もついてなく、まだまだ手紙やハガキが活躍していました。。。 互いに地元を離れた友達とも、よく手紙のやり取りをしていました。 慣れぬコトも新しい出来事も多く、楽しくもあるよその土地での毎日の中で、時折舞い込んでくる遠方からの便り。 懐かしい空気も一緒に届く気がして、とても嬉しかったのをよく覚えています。 そんな中に混じっていた彼からの便りのこと。 この本を読んでいると、かつて好きだった彼から届いた便りを思い出しました。 「今しか出来ないことだから。」とワーキングホリデーに行ったりしていた彼は、中学の同級生。 そう云えば地元にいた頃から、割とマメに手紙やハガキを送ってくれたりしていましたっけ・・・。 資金をためてはスペインやフランスへ行って、何度か便りをくれました。 きっと、ひとりでそこへ飛び込んでいって、直接五感でイロイロ感じ取るからなんでしょう。 ひとりで旅をする時、数人での旅の時よりも、いろんな感受性が全開になりますよね。 私も学生の頃、旅先から友人に宛ててハガキを出していました。 キレイなモノ・受けた感動。その時に感じた臨場感を伝えたい、そんな想いがありました。 そんな時に受けた印象などが、書き留められて送られてくるエアメール。 個人的な内面を、ちょっと共感できるような嬉しさ。書いてある文字の暖かさ。 そしてきっと、書いている間は、私のコトを思い出していただろうという想い。。。 今、ネットが普及してとても便利ですけれど、こんな暖かな便りのやり取りを体感できた世代でよかったと、 この本を読んでしみじみ感じました。 そんなキモチになれる一冊だと思います。
読んでいるあいだずっと、暖かいものが内側から沸々と湧き上がるのを感じていた。 この本には、伊勢氏がパリに数週間滞在して、セーヌ河近くにある伝統的な装丁の工房に通う日々が記されている。この滞在によって、絵本『絵描き』や『ルリユールおじさん』が産まれた。私は数年前にパリに2年間住んだ。なので、この本で出てくる場所は殆ど全てありありとその情景を思い浮かべることができる。特に驚いたのは、パリの最もお気に入りの場所の一つであるサン・ジュリアン・ル・ポーヴル教会とその前にあるアカシアの樹が伊勢氏にとっても重要な存在となっていたこと。このアカシアの樹は、おそらくパリの中では最も古い樹の一つであるといわれているもので、私はわざわざこの樹に会いに行くためにその地を訪れた。『ルリユールおじさん』の表紙に描かれている大樹は、この樹だったのかと思い、嬉しくなった。また、その教会ではショパンのコンサートが頻繁に開かれていて、おそらく伊勢氏が聞いた人と同じピアニストのコンサートを私も聞いた。なので、この本を読みながらそれらの記憶が噴出し、同時にそれが伊勢氏の暖かい眼差しとも混ざり合って、表現しがたいほど複雑な、心地よい読書体験を得ることができた。この本を切っ掛けにして、ここに描かれている場所を訪ねてみてはいかがでしょうか?おすすめします。