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奇術師の密室 (扶桑社ミステリー)

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奇術師の密室 (扶桑社ミステリー)の商品レビュー

4.0 もう一ひねり欲しかった
ある一日の午後を描いた密室劇ですが、数少ない登場人物のほとんどが奇術師であるというところから、夫婦、愛人、姉弟を巡る愛憎劇をどんでん返しの連続で描いています。
ただ、どんでん返しといっても本質的には同じパターンの繰り返しで、語り手を使って、もう一ひねり欲しかったところです。
もっとも、登場人物や舞台装置に制約が多い中で、職人肌の作家による巧みな語りを楽しむ分には十分水準を超える面白さです。
この作品を気に入った方は、同じく半身不随の語り手を使いより凝った構成を楽しめる「グロテスク」パトリック マグラア著をお勧めします。
3.0 まるで舞台を鑑賞しているような、奇想天外な通俗スリラー
「IN・POCKET 2006年文庫翻訳ミステリー・ベスト10」総合第4位。’06年、「このミステリーがすごい!」海外編、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門共に第7位。

巨匠リチャード・マシスンが69才の時に著した、奇想天外な通俗スリラーである。

物語の語り手は、さる脱出マジックの失敗から引退を余儀なくされ、今は植物人間の一歩手前という境遇におかれている老奇術師。登場人物は、2代目を名乗っている息子マックスと助手でもあるその後妻、マックスの使い走りである後妻の弟と、マックスのマネージャー、そして呼び出された所轄の保安官、と限られている。

彼らが、この身動きもできなければ、口もきけない、車椅子の老奇術師の眼前で、マジックルームと呼ばれる、奇術の小道具や摩訶不思議なものがあふれ返っている彼の書斎を舞台に、ケレン味たっぷりの騙し合いの奇術合戦を繰り広げる。

タイトルがまぎらわしいが、本書は密室ものの本格謎解きパズラーではない。
読者は、手を変え、品を変え展開される、どんでん返しにつぐどんでん返しのファンタスティックな、息つくひまのない殺人劇を、まるで舞台を鑑賞しているみたいに堪能して、一気に読みきってしまうこと請け合いだ。

「1980年7月17日の午後に、あの屋敷で起こったことについては、奇妙奇天烈といっておけば、まちがいない。では、話に入るとしよう。これからはじまるのは、欲と冷血、恐怖と略奪、サディズムと殺人―そしてアメリカ式の愛の物語だ。」
2.0 マシスン作品の翻訳が相次ぐのは慶賀すべきことではありますが…

 往年の名奇術師デラコートは脳卒中の後遺症で今は体の自由が全く利かない。後を継いだ息子のマックスに世話になりながら屋敷でじっと暮らす身だ。息子の妻カサンドラは相当な野心家。そしてその弟ブライアンも一癖ある人物だ。彼ら登場人物たちに、マックスのマネージャー、ハリーが加わったある日、想像を絶する愛憎の物語が展開する…。

 「トワイライト・ゾーン」、「激突!」、「ある日どこかで」といったTV/映画業界で幻想と恐怖の世界を長年描いてきたリチャード・マシスンの1994年の作品「Now You See It...」の翻訳です。昨2006年にようやく日本で出版され、「このミス2007」のベスト10にも選ばれました。

 私は30年来のマシスン・フリークで、彼の作品が数えるほどしか日本語で紹介されていないことにしびれを切らし、この20年はロンドンやニューヨークの古書店で彼の原作本を買い集めてきました。本書の原作も持っています。ですから近年、彼の作品が遅ればせながら翻訳されたり復刻されたりしているのは、ファンとして大変喜ばしいことだと思っています。

 しかし、残念ながら本書はマシスンにとって、円熟期を過ぎた頃の作品です。読者を震え上がらせ、めまいを起こさせるような異界をつきつけてくれた(1950〜1970年代の)作品を知る私にとって、本書はマシスン翁(68歳)のちょっとした片手間仕事にしか見えないのです。こうしたどんでん返しや化かし合いの物語は類似のものが数多くあり、本書の展開は新奇さに欠けます。映画化された「悪魔のような女」、「探偵スルース」、「デストラップ 死の罠」などの傑作に比べると、もう本書は古いといわざるをえません。

 マシスンの作品は本書よりも「13のショック」や「地獄の家」がやはりお勧めです。

 *ひとつ誤訳がありました。
 「いまは十九世紀だぞ」(72頁)→「いまは1980年だぞ」
 
4.0 騙される快感に酔ってください。
本書の語り手は舞台で脱出マジックに失敗して植物人間になってしまった老マジシャン。
彼は、目だけが動かせるという状態で車椅子に座らされている。彼がいるのはマジックの小道具が所狭しとならべられたギミック満載のマジックルーム。そしてここに登場するのが、植物人間になった父親の跡を継いで立派な2代目となった息子及びその妻、妻の弟、マネージャーの計4人。途中で加わる保安官を入れると計5人。登場人物はこれだけである。さらに付け加えるならば、舞台はマジック・ルームの中のみ。さて、いったいここで何が行われるのか?
純粋に楽しめたといっていい。確執と疑念が渦巻き、短い章が終わるたびに驚かされ、上がったり下がったりの繰り返しに目が回りそうなくらいだった。マシスンの筆は時に悪ふざけが過ぎ、いささか過剰な演出となってる部分もあるのだが、それはご愛嬌^^。まさしく『してやったり』のオンパレードなのである。
ひとつ断っておくが、本書に本格のトリックを求めてはいけない。なにしろ舞台はマジック・ルームなのだ。ここには種も仕掛けもたんとある^^。マジシャン相手にまともに張り合おうなんて気で読んでいては、興が削がれるというものだ。ここはひとつ、受身になって大いに騙される快感に酔って欲しい。いやあマシスン御大いくつになるのか知らないのだがもうかなり高齢のはずなのにやってくれますねー。
5.0 サプライジング・ストーリーの傑作
スピルバーグの出世作「激突!」の原作者として有名なR.マシスンが贈る奇術をテーマにしたサプライジング・ストーリー。一世を風靡した奇術師で、事件当時は植物人間になっている老人を語り手として物語が進行する。

登場人物は語り手の跡を継いだ息子の奇術師、その妻、妻の弟、奇術師のマネージャ、保安官の5人だけ。そして舞台はほぼ奇術師の書斎だけという、ヒッチコックの「ロープ」を思わせる設定。初めは奇術師が、不倫の関係を続けている妻とマネージャの殺害を企てていると見せかけ、後は登場人物と動機の組み合わせを全て尽すかのようなドンデン返しの繰り返し。読む方は、誰がどういう意図を持って行動しているか見当が付かなくなる。見事な騙しの技である。ストーリーの緊張感を適度にほぐすような語り手の合いの手も、最初は煩く感じたが、次第に微笑ましくなった。奇術に興味のある方は、幾つかのネタ割りも楽しめる。

作者は日本でも有名な米TV「トワイライトゾーン」の脚本も手がけている由。場面割りの巧さ、着想外のアイデアという点で優れているのもうなづける。まるで奇術師の芸に見事に騙されているかのような感覚が味わえるサプライジング・ストーリーの傑作。

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