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暮らしの哲学

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暮らしの哲学の商品レビュー

4.0 文体の確立期
49歳で没した池田晶子の、刊行順としては最後の作品です。本来の絶筆は「人間自身―考えることに終わりなく」に掲載されている、第179回の温泉の話です。

これから書くことは「人間自身―考えることに終わりなく」にも言えることなのですが、池田晶子は晩年へ向かうにあたって、ようやく文体を獲得出来てきたように思います。それまでは、口語体で哲学、考えることを伝えるという独自のスタイルもあって、なかなか文体が確立してこなかった。

文体というのは、執筆する者にとっては、非常に重要なファクタだと言えます。そこには、それまでその人が歩んできた道のり、その道程の中で獲得してきた経験(これが最重要)、知恵、知識がありありと現われてくるものだからです。

この「暮らしの哲学」、そして、「人間自身―考えることに終わりなく」は、内容的には特に目新しいものはあまりない。それはそうです。池田晶子という人はとにかく生と死とについてとことん考えてきた人だ。そして、そこから着想した考えをなんとか読者に口語で伝えようとしていた、そのスタイルは当初から変わらないのであって、内容もそうそう変化するわけがありません。基本的に普遍的なことに限って書いているのだから。

それでも着目したいのが、私にとっては彼女の文体の変化なのです。これは、ちょっとみただけでは明瞭には分からない。ほとんどの人はその変化に気づいていないかもしれません。それほど微妙な変化であるけれども、明らかに変化している。抽象的な言い方になりますが、文体に力が増してきていた。

ですから、49歳で没したというのは非常に残念です。彼女には、老いていくことの玄妙さ、それに伴う生と死の考え、そしてその中で起こる変化を是非とも書き続けてほしかった。これは私の勝手な想像ですが、老いれば老いる程、瀬戸内寂聴のように読者を増していったのではないか。あるいは彼女の敬愛していた小林秀雄のように。

できれば、初めて池田晶子を読む方には、ここからは薦めたくありません。彼女の思索の遍歴を楽しむためにも、少なくとも「考える日々」あたりから読み始めて欲しいと思います。
5.0 人生の一回性と季節の回帰性
読むにしたがい、残りページ数は減る。当たり前である。しかしそのページをめくる行為が辛い。サンデー毎日に2006年4月16日号から2007年3月4日号まで掲載されて文章。
同時期に週刊新潮のエッセイをまとめられた著書(人間自身 考えることに終わりなく)とは大分趣きが違うように感じる。人生の一回性を季節の回帰性から哲学しているように素人読者は思った。そしておそらくご自身が死を受け入れている中で(彼女自身は死は怖くないと幾つかの著作の中で語っているが)若い頃の想い出、父親の想いでを哲学者としてよりむしろ一人の少女(旅人)として最終章に向かいながら書き綴っているようでもある。

「金、女、権力」の週刊誌上で、哲学するとこ見せようじゃないの。本質が現象を射抜く現場をお見せしようじゃないの。じっさい、筋道に沿って正しく考えているのなら、専門用語なんか要らないのである。普通の言葉で言えるのである。p31
色即是空は暮らしの哲学 p33
回帰する季節に記憶を重ねることで、人生の一回性を確認することに他なりません。中略。大人になっても夏は来ます。でも夏休みはもう決してやって来ない。毎年、夏の気配を感じとる頃、夏を待っているのか、夏休みをまっているのか、よくわからない感じになる。大人になって勝手に夏休みをとることができ、贅沢な旅行ができるようになっても、子供の夏休みの日々、あの濃縮された輝きにかなうものではないとういうことが、よくわかっている。おそらくすべての大人がそうでしょう。すべての大人は、もう決してやって来ない夏休みを待っている。人生の原点であり頂点でもある無時間の夏、あれらの日々を記憶の核として、日を重ね、年を重ね、流れ始めた時間の中で繰り返しそこに立ち戻り、あれらの無垢を超えることはもうこの人生にはあり得ないのだという事実に、今さらながら驚くのではないでしょうか。(夏休みは輝く)

「旅人」の池田晶子さんは、いまどの辺を思索しながら旅をしているのだろう。
5.0 「死後」の世界と反対の世界
池田晶子さんの本は「ソクラテス」シリーズで知っていたのですが、これほどまでに平易な言葉で哲学する、「考える」書籍を書ける人がおり、しかも女性ということでしたので、確かに22歳で自らを天才であると気づく(定める)に値する方と感じていました。

確かニーチェのムック本か何かにも記事を書いておられたのですが、池田氏と他の哲学者1名の記事以外は殆ど読むに値しない本でした。
実際専門家だの哲学者と言ったところで自分で「考えて」いない人は「哲学している」とは認められないというところは池田氏と全く同じく考えておりますし、自らの平易な言葉で難解と言われているだけの哲学の世界を再解剖してみせる、まことに痛快な確かに1名の天才であった池田氏の突然の逝去には、正直驚きまた非常に残念です。

哲学者を自称しながら専門用語で韜晦する作品を作る方も多い中、池田氏の存在とその著作は、誠に皮肉ではありますが、死後によりその価値が世間に知られるところになるのではないでしょうか。

この書籍を書かれた頃には、既に闘病されていたようですが、その時の考察は作品内に満ち充ちております。
季節の事、死後の世界のこと、言葉は全てを包括しているということ。

池田氏は実際の肉体より精神について「リアリティ」を感じていたという稀有の人ですが、この作品内には自らのこととして直接的に書かれているようには一見、見えませんが、それでもやはり「死」という「生」の伴侶に過ぎないものとの遭遇についての、一種の恐れ、哀しみと共に、それに対する憧れなのか、冒険心なのか、そのような物が垣間見えます。

この書籍の構成が季節になぞられ書かれていることも、自分に残された時間をカウントしつつ、その時だからこそ気付ける何か、そのような自分であるから初めて分かった古人の知恵や言葉に対する、実に素直で正直な、少年か少女のような透明な感慨がちりばめられています。
「死後」についての考察も非常に多く、一見元気が良い文体なのですが、これを書いた時、作者はどのような気持ちであったのだろうと、思わず考えてしまいます。

あえてご冥福をお祈りしますとは言わないでおきましょう。
「生」と「死」の境界線を越えられただけと思いますので。



5.0 全力疾走
池田氏のすべての著書に流れているものは、「私は、どういういわけか<存在>を与えら、その与えられた人生に全力疾走しています」というものではないでしょうか?
本書は、ますます世間=生を脱色してゆき、本質のみを追及してきた氏の存在の軌跡としてのエッセンスが、平易な(洗練された)文章として凝縮されたものとなって、胸に迫ってきます。


「この<たまたま>というが、こういう考え方をするミソでありまして、実際、なぜ自分はここに生まて、あそこに生まれなかったということは、考えても、理由がない。理由が見つからない。ということは偶然である。したがって絶対である。
この、偶然的なことが絶対であるという原点に気がつくていると、自分の人生に、言ってみると腹が据わるんですね。人と比較するということがなくなるんですよ、だって絶対なんだから。自分の人生はこうであり、これ以外ではあり得ないなかった。こうわかっているなら、あとは黙って生きるだけだ。」

「人は、春になると変わることなく花を咲かせる桜を見たい。なぜなら、人生は、過ぎ去って還らないけれども、繰り返し巡り来る、一回的な人生と、永遠に巡る季節が交差するそこに、桜が満開の花を咲かせる。人が桜の花を見たいのは、そこに魂の永遠性、永遠の循環性をみるからだ。それは魂が故郷へ帰ることを希うような、たぶんそういう憧れに近いのだ。
始まりを繰り返すことの痛みは、終わりへと向かうことへの痛みでもあるだろう。花は儚いと人は言う、自分の人生がそうであるようにと。」(以上本書より)

エッセイとして読んでも、珠玉の「ことば」となっています。本書は、「言葉とは命である」、文字通り氏の生きた「ことば」となっています。

「願はくは 花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃」。
桜の花を生涯こよなく愛した西行の辞世の句。

氏のことばは、それを実感できた人の胸の中で、生きつづけるのですね。

5.0 早すぎた旅立ち
 2007年2月23日に急逝した著者の、亡くなる直前1年間に週刊誌に連載されたエッセイをまとめたもの。以前から、そのあまりの生への執着のなさに驚き、歯に衣着せぬ毅然とした物言いや、思索がすべてと言い切る潔さにある意味憧れていた著者の突然の訃報でした。そして、本当に自身の死を予感して過ごされたであろう最後の日々に、どんなことを考えていたのか、それを知りたくて購入。
 連載の性質か、内容は軽めのものが多く、また私のように「最後の日々」に関する特別な記述を求めるとやや肩すかしを食うかもしれません。実際これまでの著作で読んできたような内容の章もあります。しかし、今回は季節ごとの徒然なるままに綴られたといったそのままの構成が、かえって読後に余韻を残します。「生に執着のない哲学者の目を通して見たこの世界」が、とても美しく、愛おしく感じられます。
 「最終的には、この『自分』というものをこそ、捨ててしまいたいのだ。完全に姿を消して、そんなものはいないかの如くに振る舞う。……そして、自分が死んだということすら気がつかないぐらいに自分がいなくなった時、人生と存在の本当がわかるのだ。どうしてもそんな気がする。」(本書36ページ)と書いた著者ですから、きっと今も思索を続けておられるでしょう。常々、「体験してみないことには絶対にわからない」と言われていた実際の「死」についても、もしかしたら何か素晴らしいことを発見されたかもしれない。しかし、悲しいかな、この世にある私たちには、それを知る手段がなくなってしまった。合掌。

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