脳科学者によるニューロン・システムの研究史
シナプスが人格をつくる,というタイトルだが,どこまで読んでも,シナプスがどのように人格をつくっているのかは,わからない。 認知と情動とモティべーションについて,たとえば,目が何かを見るときに,脳のどこそこが機能している,恐怖を感じるときに,脳のどこそこが機能している,意思決定がなされるとき,脳のどこそこが機能してる,といった説明が,詳細になされているに過ぎない。こうした記述がなされることが,どうしてシナプスが人格をつくっていることの説明になるのか,わたしにはわからない。
その説明は,研究史の紹介という形でなされるので,著者の意見がどこにあるのか,どこまでが確かな事実なのか,わかりにくい。
著者が説明に用いるキー概念は「ワーキングメモリー」である。本書を読んでいると,ワーキングメモリーという実体が存在するかのように思えてくるが,前頭葉のニューロン・システムの一次的な情報貯蔵機能と諸情報の比較・対照,および判断などの実行機能をもって,ワーキングメモリーと呼んでいるのであって,こうした諸機能の総体をワーキングメモリーと一括して名付けると,脳の働きの説明においてたいそう効率的だ,というだけのことである。ワーキングメモリーを実体化するような記述は,いかがなものかと思う。
もしニューロンの働きに関する本をすでに何冊かでも読んでいるなら,本書を読むことは,新鮮みに乏しい読書体験となるだろう。
読んだもん勝ちの本
シナプスとはニューロンとニューロンの間にある隙間。「ニューロンが活性化されると、電気的インパルスがその神経繊維を流れ、その終末から神経伝達物質と呼ばれる化学物質が放出される」(p.3)。脳の活動はほとんどがこのシナプス伝達であり、過去のシナプス伝達によって書き込まれた情報が呼び起こされることで知覚・記憶・情動などのプロセスが生まれる。例えば、ある人にとって犬の記憶が子供の頃に噛まれた記憶と抜きがたく接続されていたら、大きな犬が近寄ってきたらすくみあがったり、恐怖を味わうだろう。一方、かわいいネコとの思い出があれば、それは…という具合にシナプス結合のパターンによって、その人がどういう人間であるか、ということが決まってくるわけだ。しかも、ありがたいことに、こうした記憶パターンは固定されたものではなく、今日の経験がシナプスに書き込まれることによって明日のシステム(つまり私たちの人格)が大きく変わってくるという可塑的で動的なシステムになっている、と。 ペットのDNAを保存して、死んでしまった後に、それを使ってクローンをつくる、ということが実際にサービスとして行われているが、ルドゥーの立場からすれば、それはクローンではあり得ないということになる。だって、同じDNAを持っていたとしても、まったく同じ経験をさせないかぎり、同じシナプス結合はされ得ないわけで、性格まで完全に似てくるなんてことはどだいムリだからだ。
一時期、複雑系なんていう怪しげな概念がもとはやされ、対象を要素に分割・還元して分析するという要素還元主義は古いなんてことがまことしやかに書かれていたりしたが、ルドゥーは徹底的な要素還元主義の立場から、人格とは何か、脳の働きとは何かというBig Questionに答えている。