妄想に満ちた小説「ダ・ヴィンチ・コード」の種本
本書は、マイケル・ベイジェント「レンヌ=ル=シャトーの謎」とともに、「事実に基づいている」と著者ダン・ブラウンが主張する小説「ダ・ヴィンチ・コード」が依拠した種本の一つです。また、著者のスターバード自身、ベイジェントのこの本を真に受けてこの本で示されているような見解を抱くに至ったといい(著者まえがき参照)、また自説の根拠として「レンヌ=ル=シャトーの謎」をたびたび引用しています。しかし、(1)本書が依拠しているグノーシス主義文書「フィリポ福音書」は、正典福音書を利用して三世紀後半になってから創作されたものであり、一世紀の出来事について歴史的に信頼できるような資料ではありません。(Philip Jenkins,Hidden Gospels: How the Search for Jesus Lost Its Way(Oxford University Press)参照)
また、このグノーシス主義文書の内容そのものも、ブラウンが「コード」でティービングに語らせているような思想と一致しません。(詳細についてはCarl E.Olson,The Davinci Hoax(Ignatius)参照)
(2)テンプル騎士団に対する訴訟記録にカタリ派的・グノーシス主義的二元論を理由とする訴追は存在せず、彼らがスターバードが主張するような思想の持ち主であったという根拠はどこにもありません。また、ゴシック建築にテンプル騎士団が主導的役割を果たしたという文書的記録もありません。(テンプル騎士団の実態に関してはPeter Partner,The Murdered Magicians:The Templars and their Myth(Oxford University Press)、ゴシック建築の象徴に関してはTitus Burckhardt,Chartres(World Wisdom Books)を参照。)
(3)「シャルル六世のタロット」と称するものは、実際は1480年前後にイタリアで書かれたものに過ぎず、このカードがテンプル騎士団とその思想への迫害を描いたものだとするスターバードの解釈(本書第五章)にはいかなる根拠もありません。(「シャルル六世のカード」の実際の由来についてはRonald Decker,A Wicked Pack of Cards(St.Martin's Press)参照)
(4)シオン修道会やレンヌ=ル=シャトーに関する多くの「事実」は、実は二十世紀になってから捏造された文書からとられたものであることが複数の研究者たちによって明らかにされています。当初これらの文書を信じて番組を放送したBBCも、1996年にその誤りを認める番組を放送しています。(Bill PutnamおよびJohn Edwin WoodによるThe Treasure of Rennes-Le-Chateau: A Mystery Solved(Sutton Publishing)参照。また、Paul Smithによる詳細な研究”Priory of Sion Debunked”がネット上に公開されています。)

ダ・ヴィンチ解読書の中の傑作!
ダ・ヴィンチ・コードを読んで以来、数々の関連本を読んできましたが、
その中でもこの本は「アタリ」だと断言できる本です。安易なつくりの解説本が氾濫している中で、
数少ない読み応えのある研究書です。