気づきの力
唯物論の還元論者は,自由意志などないという。著者は有名なリベットの実験とその解釈を紹介しながら,主張する。欲求と衝動は無意識のうちから自然に発生している。何かの活動に対する準備電位は,活動よりも500ミリ秒,意志の自覚よりも100ミリ秒は速く生じる。しかし,準備電位と活動の間で,意識された衝動に従うか,衝動を却下するか,選ぶ選択の自由がある。 強迫性障害の人は,気づきと意志の力で,治ることができる。脅迫衝動に気づき,感情のラベルを貼り替え,衝動の原因を見直し,関心を意識的に移し,衝動にともなう価値観を変更することによって,治る。このとき自由意志の力が,意識的な努力が効いてくる。
気づきと意志でもって病が癒えるとき,脳は変わっている。ニューロンシステムの回路が変わるだけではない。脳全体の地図が大きく書き換えられ,文字どうり物理的に変容するのだ。
強迫性障害だけではない。子どもの言語障害の治療,脳梗塞によって麻痺した機能の回復においても,意志の力は活用され,脳が変わり,癒えてゆく。
こうした実例をさまざまあげながら,著者は言うのだ。心は物質には還元できない。脳が心という幻想を併発するのではない。脳こそは心のこどもなのだ,と。この人間観は,倫理・道徳に関する人間への期待と信頼につらなる。
素人にも読める脳関係の本をあれこれ読んだなかでは,ダマシオ『生存する脳』と並んで,もっとも読後感の爽快な本だった。
脳と心に興味のある方に!
今、ブームの心脳問題がテーマである。作者のJ.SchwartzはUCLAの精神医学の教授であり、強迫性障害研究OCDの権威である。この本の中では、彼のさまざまな治療経験が描かれており、心と脳というものに興味のある人にとっては、考えさせられる内容となっている。特に、認知・行動療法によってOCDの症状を改善させ、ゲームやCDを用いて失読症を治療したという下りは興味深かった。ここでは、心=思考によって、脳に器質的な変化が生み出されたという、驚きの結果が得られている。さらに、作者は物理的な思考も取り入れ、量子脳というものについても言及している。
基本的にSchwartzは二元論支持者であり、心の力をforceと命名している。この点については、私は賛同しかねると共に、説明にあまり説得力が無かったように感じる。しかし、総体としては読みやすい文章で、二元論者もそうでない方も知的興奮を得られる一冊になっている。