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対話の回路―小熊英二対談集

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対話の回路―小熊英二対談集の商品レビュー

5.0 対話とは何たるか
対談のお相手は村上龍、島田雅彦、網野善彦、谷川健一、赤坂憲雄、上野千鶴子、姜尚中、今沢裕の八氏。
買うと高いので、図書館で借りて読みました。小熊さんは、今注目されている若手の学者。写真を見ると、ほんとに若い。お兄さん、という感じ。小熊さんの本は初めて読んだけども、どの対談も非常に興味深く読めた。特に、網野さん、谷川さんとの対談では刺激的な議論が展開されてたなー。対談の内容は、どれも深く、正直全てを理解できたかわからないけど、いろいろ勉強になった。「対話」とはこういうことを言うのですね。うーむ。
小熊さんの単著も読みたいな。
3.0 むしろ小熊の弱点に目が行ってしまった
 小熊と上野千鶴子による鶴見俊輔インタビュー『戦争が遺したもの』が読み物としては傑作の域に達していたので、今回の対談集も大期待して読んだ。しかし期待が大きすぎたのか、興味深い論点も多々あったものの、小熊の弱点ばかり気になってしまった。
 対談前の小熊の勉強ぶりが評価されているようだが、それは当然のことで、ことさらに誇るべきエピソードでもないと思う。そんなことより、村上対談など元来は村上側が小熊に話を聞こうと持ち込んだ企画なのに、いつの間にか小熊による村上インタビューに逆転しているのは、ちょっと異様な印象を受ける。
 小熊が聞き手に回るのは村上・網野・谷川の3対談だが、そのいずれについても、まさに小熊の著作群のように相手を時代の反映として解釈し、知的にねじ伏せようとする強烈な志向性を感じた。ただし、著作でならそれが美しいストーリーに仕上がったのだろうが、対談では相手が反撃してくる。そしてこの攻防劇は、小熊のある種の抽象性と通俗性を浮き彫りにしたように思う。
 例えば網野史観は植民地主義と親和的という批判(p192)については、私は網野の反論に理があると思う(抽象性)。また「じゃあ、アンタは柳田の何を評価するのか」という谷川の反問(p240)への返答は、柳田にカルスタ・ポスコロを見るというものだが、小熊は本気でそれを価値ある可能性と考えているのか? 心にもないことを言ってはいないか?(通俗性)
 『戦争が遺したもの』でも、実は小熊はかなり危うい主張を展開して上野にたしなめられたりしていた。小熊の発言が空回りしそうな場面を、上野が救っていた。本書の小熊・上野対談は評判が芳しくないようだが、鶴見インタビューでは上野の貢献度が大きかった。
 鶴見インタビューの編集は小熊が担当したらしいが、インタビュー編集は劇作に近いものがある。そして劇作家・小熊が登場人物・小熊を活かす上で、上野というキャラはかなり重要だったのではないか。今回は上野のような調停役を配することができず、対談もやや精彩を欠いた、ということか。
3.0 相手の著作を徹底的に読み込む小熊はすごい
 冒頭の対談、あの村上龍がたじたじと言うか、すっかり借りてきた猫だ(その文体の狂気とバランス感覚を小熊からジミヘンに例えられたときの無防備さ、無邪気な歓びようと言ったら!)。エコノミストや経済官僚に云わば村上が聞き手のような形で絡むあの謙虚な感じとも違う。どこがポイントなのかと言えば、小熊の対談に臨む構えが違うのだ。「あとがき」でも述べているが、小熊は対談を受けるに当たって、対談相手の著作を徹底的に読み込む。完璧にアドバンテージは小熊にあるのだ。自分の著作を徹底的に読み込まれたら相手は悪い気はしないだろう。しかし、知り尽くされて、的確な批評が飛んでくれば、居住まいを正すっちゅーか、うかつな発言は出来なくなる。ガチンコだけど、読者がいわゆる対談というものに求める白熱とか脱線は期待できない。まあ密度は濃いけどね。
 しかし、小熊は徹底的に頭がいいし、正しい。その真面目さ、優等生さに一瞬もろさも感じないではないけど、一方で体力があるっていうか、その徹底さかげんには、おいそれと太刀打ちできない感がある。個人的に同世代ってこともあり、かなり気になる人ではある。大塚英志あたりとの対談なんて読んでみたい気がする。
5.0 『読み込む力』ということ
この本でやっと、小熊英二の仕事のし方もある程度分かってきた。
彼の力は『読み込む力』なのである。村上龍との対談を準備するためにまずは20冊読んでみたらしい。その上で対談する気が出て初めて臨んでいる。いざ対談が始まると、最初は村上から対談依頼があったにもかかわらず、内容はすっかり村上龍の小説の分析という形になってしまった。村上も相当突っ込んだ質問にきちんと応えている。それはすなわち小熊の読みこみが深いからに他ならない。

小熊は村上から『小説家になりたいと思ったことはなかったのですか』と聞かれる。『(世界を揺るがすような言葉を)私は創れないから歴史的な資料から力のある言葉を探して書くしかないんだと思います。」 その気持ちよく分かる。けれども才能がいることも分かる。

5.0 サラリーマンの小生として
 初めに断っておくが 小生はごく普通の会社員であり 通勤電車で日経を読みつつ どうやって仕事をやろうかと考えている生活を送っている。従い 例えば網野善彦さんとの対談に出てくる各種人名については チンプンカンプンである。読者としては 全く資格を欠いているとしか言いようがない。それでも 小熊さんの作品が出ると 割りと買っているから不思議である。そうして 間違いなく めちゃくちゃな読み方をしているはずである。

 例えばインド日記を読んだ際には 何より 小熊さんの強烈な「好奇心」に痺れた。日経通勤の小生としては 「これは新入社員の読本にすべきだ」という 誰も期待していないような感想を持つに至った。
 単一民族神話の起源を読んでいると 会社においても正社員、契約社員、アルバイトという「多民族」(これは取りも直さず待遇と権限の問題である)と会社として纏まるべきという「単一民族」(会社のidendity)の問題のせめぎあいと読んでしまう。 きちんとした「資格を持った読者」の方から見るとめちゃくちゃですよね。

 但し ここで言いたいのは そういう読み方が出来るという本であるという点の凄みであり 著者の「自由無碍」な精神が 小生をして 読ませるという点が重要なのではあるまいか? というのが 小生の確信犯である。

 この対談集も その意味で色んな読み方が出来ます。そうして 小生含め 多くの人が「読める」という気がしている。多くの人に読んで貰うということは 基本的かつ短絡的に 良いことだとは思う次第。

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