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『テヅカ・イズ・デッド』でマンガ批評界に確かな一石を投じた伊藤剛の新刊は、各媒体に発表してきた様々な形式のマンガ評論を纏めた、さながらミュージシャンのB面集、アウトテイク集といった按配の内容になった。 とくに白眉なのは本書のために書き下ろされた序文で、ともすると一貫性がないように感じられるアウトテイク集を読み進めるための道標として機能しているのはもちろん、本書で初めてマンガ批評に触れる読者に対して、現在のマンガ批評の状況を簡潔に説明しようという意図も感じられたりと、非常に親切な内容になっている。なかでもとりわけ意義深いのが、副題「”マンガ語り”から“マンガ論”へ」の背景にある、問題意識についての記述だろう。伊藤氏はかつてのマンガ評論形式(伊藤氏の言う「ぼくら語り」)からの脱却を試み、そして成功しているように見えるが、この序文を読めば、それは「ぼくら語り」を闇雲に否定するような態度ではなく、「ぼくら語り」が成立しえた根拠やその背景まで提示することで現在の豊かな“語り”の状況の成立までを見据えるような、広い視野と誠実な身振りが支えている事が分かる。それはひと口に、マンガ、ひいてはマンガに関わる人々への愛情と言って良い。 祈りにも似た一文によって結ばれる、この美しい序文だけでも読む価値はあるが、思考の変遷の記録である以上は伊藤氏のキャラクターが強く出ていることは間違いない。肌に合う合わないはあるだろう。だが批評家にとってもっとも大切なのは対象への愛だと考える私のような人間にとっては、まず間違いなくお薦めできる一冊だ。