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転がる香港に苔は生えない

転がる香港に苔は生えない

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転がる香港に苔は生えないの解説

   ノンフィクション作家であり、写真家でもある著者は、香港の中国返還の瞬間(1997年7月1日)を体験するため、2年にわたって香港で暮らした。観光客が足を踏み入れることのない下町の古アパートに居を定め、生活者の立場で香港と向き合ってじっくりと観察した。そこから生まれたのが、第32回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した本書である。受賞発表後の記者会見で、著者は「子どものころから中国に興味があった。大学生で1年間香港留学もした。返還は自分にとって大事なことだと感じていたから、人から聞かされるのでなく、自分自身で体験したかった」と香港に住んだ理由を説明している。

   もちろん、返還は本書の重要なファクターだ。しかし、そこだけに焦点を当てたドキュメンタリーではない。むしろ、およそ返還とは関係なさそうなエピソードにこそ、この本を読む楽しさがある。たとえば、著者が飲食店で働く美少年に興味をひかれ、なんとか彼に近づこうと努力する話。あるいは、仕事を得るために白髪を染めた中年カメラマンが仕事と一緒に若い彼女を手に入れた話。また、地下鉄に乗り込んできた家族が、幼い息子の活躍によって次々と席を確保していくありさま。返還があろうとなかろうと、たくましく暮らさざるを得ない香港人こそ本書の主役といえるだろう。

   他の著書に、本書と対をなす写真集『ホンコンフラワー』、デビュー作の『謝々! チャイニーズ』とその姉妹編である写真集『華南体感』がある。(松本泰樹)

転がる香港に苔は生えないの商品レビュー

5.0 買いです。
97年、返還に沸く香港で、二度目の留学となる作者は日本人としての自分と、「大陸」に対して自らの選民意識を隠そうとしない、どころか積極的に肯定さえしようとする香港人、そして難民さながらに流入してくる「大陸」の人たちの変化や在り方を、時にゆるく、時に冷徹に描いていきます。この時期、僕自身がある理由から韓国を頻繁に訪れていて、韓国の人たちの日本人に向けたまなざしや、根付いているはずの儒教思想の裏表に戸惑うことが多かったので、作者の香港での出会いやめぐり合わせの繰り返しに身近なものを感じたりもしました。小林紀晴の「アジアン・デイズ」にはすこし作り物めいた感じ(コンパクトにまとまっているためだと思います。記述に嘘があるとかいった含みはまったくありません)がしたのですが、本書は600ページを超えるヴォリュームが海外にいる時のめまぐるしくも、まったりとした時間の進み方を自然に体現しているように思いました。

5.0 又香港に行きたくなった。いい本です。
1ヶ月ほど前に書店で見かけ、購入しました。
自分が普段購入する文庫の中ではかなり厚い部類に入るので
一瞬、ためらいましたが読み始めてみるとあっという間に
読み終えてしまいました。
何というのか、この表現力。自分も旅行好きで紀行本を素人
ながら自作してみたりするのですが、あぁプロの文章、「本物」
を感じざるを得ませんでした。
単なる観光旅行が好きな人以外、香港という街に惹かれる方、
万人にお勧めできます。

5.0 まさに私も感じたこと
著者と同じ時期に香港に住んでいました。私もまさに同じようなことを感じていました。
香港人が返還の前後に感じていたであろう複雑な気持ちがとてもうまく書かれていて、そのときの香港の空気まで伝わってくるように感じました。
香港の人たちはいつも前向き、でもそれはそうならざるを得ない環境に生きているから。
今は変わってしまった空港とその周りの街の雰囲気をこの本の中でまだ感じることができてなんだかとてもうれしかったです。
5.0 絶品
生々しい香港の人々の生活が感覚として伝わってくる内容は、返還という特定の時期に2年住んでいた著者の体験と表現力から生まれたものであり、他に類を見ない絶品だという印象です。

歴史や人々の生活実態を頭で理解することは、見方や方法が一つでないため困難を極めますが、著者の体験を通して心の感覚で、数字や記録では残す事ができない目に見えない感覚がつかめてきたのです。

この本を読んだのは2度香港を訪れた後でしたから、より深く本の内容の世界に入り込むことができたのだと思います。香港は植民地だったため、新興勢力は大きくても、本土からの人には安定した居住環境は元々なかったわけで、現地でも非常に生々しくそれが伝わってきた記憶があります。表紙の写真も素晴らしいので記念にとっておきたい本になりました。私の中での香港の思い出とも絶妙にかみ合ったのだと思います。
5.0 香港・星野博美的愛人
何回読み直したかわからない本だ。
星野博美氏の著作の中では一番厚い。そして、星野博美氏そのものを体現した本だと思う。
香港と香港の人々を愛して愛してやまない星野氏の体験、感想、感覚、使い古された言葉だが、息遣い、動悸までが感じられる。星野博美氏にとって「香港」は恋愛対象のように思える。そのくらい、彼女の視点から捕らえた香港が濃密に描かれている。

私が好きなページは、彼女が日本に帰国する時の話だ。
今まで借りていたアパートを大家とトラブルを起こし、最後にガチャッと鍵をかけ、慌ててまた開けようとしたが、もう二度と開く事は無かった・・・・というあの瞬間がとても好きだ。「この場所に私は住めない」と帰国するのに、やはり去りがたくてもう一度入ろうとし、拒まれる。彼女にとって香港は一生気になる恋人の一人なのだろう。(中国もこよなく愛する星野氏だから・・)そう思う。それだけ激しく愛する情熱を持ち合わせる彼女と、彼女が恋して止まない香港に魅せられる。

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