ヨーロッパの知的散歩が楽しめる
著者は三井住友海上火災に勤務する現役サラリーマン、53歳、東京外大イタリア語学科卒、パリ支店勤務もありとのことなので、元々ヨーロッパに関心があり、旅行経験も多かっただろう。そして一方で漱石が大好きなのだろう。徹底した旅行者の視点。パリ勤務中の生活実感等は一切書かれていない。日常生活は捨象されていて、旅行者としての全くの非日常の世界。そのためか対象との距離感を感じさせ、全体的に何だかクールな印象。かっこいい。
私自身ヨーロッパとはあまり縁がない為、この本に沢山地名も出て来ても「ふ~ん」という感じで、実感がわかない。元々私にとってヨーロッパは距離があるのにそれを縮めさせてはくれない。
漱石の作品から、具体的にその国のものごとについて記述されている部分を引き出し、それに重ねて著者自らの感懐を述べる部分、その国とは関係なしに漱石が述べていることを思い出して漱石を尺度に考える部分、漱石との架空の対話をしてみる部分があり、それらが「漱石と行く」の意味だが、敢えて漱石と行く必要もなかったろう。漱石がヨーロッパについて書いた部分がきっと少ないせいだろうが、ちょっととってつけたような感じがする。漱石を引き合いに出すことの意義を感じられなかった。
ヨーロッパ好きにはよい作品だと思う。私自身がヨーロッパについて殆ど知らない為この作品の真価が味わえず、星三つ。