ほろほろと。
いい年をしたおっさんが、昭和初期に書かれた少女小説を読んで泣いている……、冷静に考えると、これほど醜悪なビジョンもないだろうが、事実だから仕方がないのだ。ことに前半におけるヒロインの“いたいけ”さには、自然にこちらの涙を誘うものがあった。もとはといえば、「こういう本は実家にいっぱいあったんだけど、東京へ勉強に行ってる間に、母親(=オレのおばあちゃん)に全部焼かれてしまって……」という、日常の会話の中で飛び出たオレの母のひとことがきっかけになり、ちょっとした、軽い好奇心から手にとってみたのだが。その美しい文体にいつしか引き込まれ、そして涙していたのだった。作品中登場する「聖歌」(“かみともにいまして~またあう日まで”)の用いられ方も、それにはかなり効いた、と思う。解説が長めなので(有益な情報も多いが)、作品自体は140ページほどのものであり、後半の、男には入り込めない、ある意味濃密な世界を描き出すことに“筆力”を込めたと思しきあたりを別とすると、全体にあっさりとしたタッチの作品だが、根っからの悪人も、読んでいてどうしても耐えがたくなるほどの不幸も登場しない――そんなところに作者の、少女たちへ託した想いのようなものが感じられる。かつて、こうした小説が、どれだけ多くの少女たちのこころを慰めていたのか、といったことに思いをはせてみると、感慨もまた深い。
なお、底本とした印刷物にある記述を尊重したためか、一部、明らかに文の一部が抜けている箇所や、てにをはの用い方が違っている部分なども見受けられたが、そのあ!たりは今後、研究が進むに従い、さらに改善されて行くものと信じたい。ノーブルな印象を与える、中原淳一によるカバーや本文中の絵も、実に魅惑的。