救われることを期待して、
「人は救われようとして嘘をつく」とかそんなコピーに読んでみようかな、と思いました。そういう泥沼を見てみたい、興味本位ではなくて、救われることを期待してでした。虐待、トラウマ、精神の病、そういったものを描くと、ともすると被害者意識が強すぎて、愚痴の塊のような何だか見苦しい作品が生まれてしまう、という、自分の中の方程式みたいなものがあるのですが、この話はすごくよかった。「けっきょく自分の不幸に同情してほしいんじゃん?」「何だか不幸なのは自分だけとか思ってない?」そういった凡作をいくつか眺めて、過ごしてきましたが、もう一度繰り返すと、
この本は、みんなに読む価値がある本だ、と思います。
苛烈な過去が明かされていくだけではなくて、現実に対して、例えば仕事に打ち込むなどして、忘れていこう、(でも)忘れられない、といった側面が描かれるのが好いし、その気持ちはすごく共感できる。重いテーマを扱っているだけに、誤解されるかもしれないけれど、そこに描かれているのは、ポジティブに生きようとして、(でも)生きられない人の悩みであり、ポジティブに生きたいはずであろう、ほとんどの人たちに生きるヒントのようなものを与えてくれるだろうことは間違いない。言い換えれば、描かれているのは意外に普遍的なことであるということ。
重い作品だけれども、ぎりぎりのラインで(またそういったかたちでしか存在し得ない)救い、は描かれていると思う。
「仔」である理由
下巻はミステリー的な側面が徐々に大きくなってきて、
ドラマ的にラストへ完結。
相変わらず一気に読ませる構成、筆力は健在で、
長いにも関わらず読むのを読められない。人間は、不器用すぎる存在だ。
心にいろんなものがありすぎて、
いろんなことを感じすぎて、
不器用に生きることしかできない。
しかし、それが人間の素晴らしさでもある。
「永遠の仔」という題名になった理由がわかったような気がする。
特に「子」ではなく「仔」の理由が。
人は誰もが、自分が幸せになりたいと思い、行動している。
その上で、誰か大切な人が幸せになってほしいとも思い、行動している。
各々に前者と後者の大小はあるにせよ、このパラドックス的な事実は、
物語の全ての人間を巻き込み、哀しみを生んだ。
この世界にいる人間は皆、年齢に関係なく、結局のところ「仔」であるのだろう。自分の存在を認め、肯定してくれる存在が「子」の隣に立っていることによって、人間は初めて自分の真の価値を見出せるのではなかろうか。
だから、世界は男と女に分かれ、両者は互いに求め合い、
人は存在を肯定してくれるものに、深い安らぎを覚えるのだろう。
しかし、その肯定的な世界が、否定的な世界に変わる場合もある。
肯定的な世界という光がある以上、否定的な世界という影は必ずついてくる。
本書はその否定的な世界に身を置くしかなかった、光を求めるがゆえに否定的な世界での痛みを知ってしまった人物たちの物語だ。
虐待、親と子の関係、男と女の関係、人間と人間、つまり「仔」と「仔」の関係、ドラマ的なエンターテイメント性を盛り込んだ以上、
少し消化不良の面もあったが、十分に質は高く、
本年度読んだ上ではベスト3には入る、素晴らしい作品であった。
人間の生命に、闇に、手を差し出した傑作です。
問題の奥深さ
現在の世の中の問題が、ギュウッと詰まったような本。世の中のニュースを騒がしているのは、多かれ少なかれ、この本に書かれているような問題を含んでいるのかもしれない。また、自分が世の中を生きていくうえでも参考になる部分は多く含まれているのではないか。 自然の描写にもとても感動した。人が自然と一体になるというか、とても清々しいものを感じられた。実際、登場人物の立場になったときは、清々しいなんて言ってられないのかもしれないが、ある意味うらやましかった。けど、読者にそういう風に思わせられる環境だから、その自然と一体になる場面での出来事が成立したのかもしれない。
嘘は生きていく上での知恵でもある。その知恵も使い方を誤れば、傷を生む。そんなのは童話レベルかもしれないが、意外と理解できているようでできていないのではないか。そんなことを上手く、しかも複雑に、複雑でありながら分かりやすく、語られているようでもある。
上下巻合わせて、とても長い物語だが全く飽きることなく読めるのは、なぜだろう。始め本を開いた時、読むのを臆するかもしれない。実際、arloも本の厚さ、字の細かさ(多さ)にはためらった。だが、いざ読んでみると集中して読むことができるので、あまり時間もかからなかったように思う。そんなことより、この本を読むことによって体感できることの方がよっぽど価値のあることのように思う。読み終わったあと、自分自身が強く生きていく意志をしっかり持つことができたこと。また、幼少年への虐待、少年犯罪が減ることを強く願ってやまない。