研究と現実の乖離を鋭く描く
トヨタに関する文献は膨大にある。そして自動車産業を中心とする労働問題研究もやまほどある。伊原氏のこの文献は、膨大にある研究蓄積と労働現場との「齟齬」を解き明かそうとした極めて斬新かつ意欲的な著作である。従来の自動車産業論においては「労働過程論」的アプローチで主に二つのことが重要なテーマとなってきた。ひとつは「熟練」の存在であり、いまひとつは労働者の「自律性」の存在である。80年代に日本的経営が注目されたとき、労働問題研究者はQCサークルやジョブローテーションなどに注目し、「構想と実行の再結合」であるとか「新たな熟練」などど評価を下してきた。批判的な立場の研究者からも「構想と実行の再結合」による労働者の「同意の調達」という点が強調されてきた。伊原氏は以上のような研究動向を踏まえながら、現場におけるダイナミズムを解き明かす。伊原氏は労働負担に耐えるための「熟練」の存在を主張しているが、事実上負担に耐えるための「慣れ」であり、質的側面に対応したものではないと主張する。また、労働者の「主体性」も最大限切り詰められたタクトタイム内で生み出さざるを得ないとも指摘。以上の点から、従来の研究でいわれてきた「熟練」「主体性」と現場の齟齬は大きいと指摘する。
研究者にとっても一般の読者にとっても、刺激的な著作である。みなさんの一読をお勧めする。
素人にも専門家にも「おいしい」本
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