文句ない名演の「お見立て」
本CDの「お見立て」は、「文七元結」「堀の内」「化物使い」などと並び、文句ない名演だと思う。これに対して「火焔太鼓」は、(比較してしまうのは仕方ないと思うが)志ん生の残っている最良の音源に比べると、残念ながら及ばなかったと言わざるを得ない。その意味で、他の方のレビューは極めて妥当なご意見だと思うが、なぜ一つのレビューを除いて、賛成票に比べ反対票がこんなにも多いのだろう。いつも、不思議に思うとともに、人による評価の差に驚かされる。
見事!
この噺くらい、いかにばかばかしい噺が落語の真骨頂としても、設定に無理のあるものはないと思う。
間抜けな客とためらいがちに花魁に言われるままに嘘をつき続ける仲ドンのやり取りは、師匠独特の域をもつかせぬ速射砲のようなやり取りの連続で無理なく下げまで進んでいく。少しでも、これが「嘘をついている」と~誰もがわかっているのだが~感じた瞬間に崩壊してしまう噺を見事に纏め上げたと思う。 なお、志ん朝師匠の遺作CDは重複するものが多く、気をつけなければいけないが、この噺は、幸いにして重複から免れており、ぜひとも購入しておくべきものと思う。
これぞ話芸
北海道に住む私は寄席に縁がなく、幾度かの地方寄席の機会にも足を運ばず終いで、遂に志ん朝師匠の芸を生で見ることがなかった。まだまだこれからの人と思っていただけに心から後悔している。こうしてCDやDVDで噺を聴ける時代ではあるが、やはり寄席で見られないことは残念至極である。 さて、本CD収録の噺についてだが、「お見立て」は志ん朝の味が良く出た好演だとつくづく思う。端切れの良いテンポ、計算されたくすぐりの程良さ。これぞ話芸と思わせる。
一方、「火焔太鼓」についてはどうしても父、志ん生の芸と比較してしまう。手許に志ん生の「火焔太鼓」のCDが何枚かあるが、この噺だけはやはり志ん生のものだなと思いながら聴き比べた。
志ん朝と言う人は、草書の志ん生よりも、むしろ枕から下げまで寸分の隙なく計算しつくした楷書体の文楽に芸風の近い噺家だった。その計算が「お見立て」ではぴったりとはまっているのと対象的に、「火焔太鼓」では少しそれが鼻につく感じがした。
とは言え名演には違いない。落語に関心のない方々にも一度味わって欲しい落語CDの一枚だ。