ゆりかがを揺らしたもの
大恐慌の傷跡を引きずりながら、世界が戦争への道を辿りつつあった1930年代のアメリカ。女優を夢見ながらも貧しい生活を強いられていた一人の女性が裏方として演劇の世界に足を踏み入れ、やがて女優の職を得る。彼女の初舞台は、しかし、権力という名のの抑圧を受けることになる。夢と実生活の狭間で、彼女は本物の芸術とは何かを知る。混乱の時代だけに、背景にある程度明るくなければ理解しがたい点があるのではないだろうか。市民が語る政治の話題に些かの矛盾点が見られるのも混沌とした世相を反映しているように思える(評者の知識不足かもしれないが)。ただ枝葉にこだわらなくても大筋は十分掴めるので、それ程気にしなくとも本作の主題は十分堪能できるであろう。
劇の出演者に子沢山のイタリア系の男がいる。その男の子供の一人が言う。「(劇の上演が禁止されているが)それでもやりたいならやるべきだよ。」無垢な子供の一言に、もっと多くの意味が集約されているように感じた。
ミュージカルを扱っているだけにテンポがいい。心の中でこそ生まれる本物の芸術。一見カタそうだが実はとても素朴なものを、コミカルなタッチでありありと描いている。何度でも繰り返し見たくなる、そんな作品である。
音楽の可能性
太平洋戦争前のアメリカの話。
政府が経費を援助して建設された劇場で政府批判の舞台をやろうとしたら止められる。
で、それに対するデモを演劇者組合がはじめる。
劇場から追い出された出演者達は、代替劇場での代替公演で組合から
「舞台に立ったらこれ以後の出演は認められない」と脅されて
だれも舞台に立てないという状況になる。で、組合に入ってなかった演出家がピアノひとつで歌いながら劇を進行させようとするんだけど
どうしても舞台に立ちたかった出演者がおもわず歌い出して…、という映画。
感情に突き動かされる人たちの映画はいいもんですね。
富豪vs芸術家の「芸術を巡る戦い」
1937年のアメリカ。大恐慌の後遺症で街に溢れる貧困と、仲間をも告発する共産党狩りに揺れる厳しい時代に、一人の音楽家ブリッツスタインが書いた社会派ミュージカル「クレイドル・ウィル・ロック(揺りかごは揺れる)」を、若きオーソン・ウェルズら芸術を愛する人たちが苦闘して公演を目指します。実話を元に感動作。役者もエミリー・ワトソンやジョン・キューザック、ビル・マレーなど面白い人たちが出ていますが、演じられるキャラクターもオーソン・ウェルズをはじめ新聞王ハーストや富豪ロックフェラー、画家ディエゴ・リベラなどそうそうたる面々です。
富豪たちが道楽で語る芸術と、芸術家やそのタマゴたちが真摯に目指すそれとが対比され、また自由への戦いか従属の安定かという社会的なテーマが一つのミュージカルに集約されて描かれているのが秀逸だと思います。
ただ、たくさんの人物により複数の話が並列で流れ(それぞれ関係はあるのですが)、煩雑でわかりにくい面は否めません。当時の米国の情勢や著名人たちについて予め知識がないと、あれよあれよと話が進んでしまうかも…(この点、DVDには人物説明が入っていますので、先に見ておくといいでしょう)。