上質のポリティカルサスペンス
私も最初に見たときは全く理解できませんでしたしテロに疎い日本人にはピンとこないでしょうし、アメリカ人の民族意識・国家意識・政治理念の背景を知らないと受動的なアクションを期待している人には面白くないでしょう。
FBI・CIA捜査官の情熱とテロリストの狂気がこの映画に緊張感を齎しています。FBI,CIA、軍隊の3巴に「ありえねー」と言う人もいるかもしれませんが、この三者の確執は実際に合衆国諸機関に渦巻いている問題です。
またこの三者がそれぞれ捨てられないアメリカの顔であり、この諸機関の矛盾をテロリストが衝くことでアメリカのアイディンティティーとは何なのか、見る者も同時多発テロ以降考えさせられるのではないでしょうか。日本も人事ではなくなってきたようですし…
わかりにくい。
9.11の前に作られたというのうが不思議なほど今の対テロの現実をえぐっている。逆に言うと、それだけアメリカ社会にとっては、9.11のようなテロがいつ起きても不思議は無いという感触があったと言うことなんだろうね。しかし、こと「エンターテイメント」としては、とても分かりにくい。複雑な話を見事にまとめていた、『戦火の勇気』のエドワード・ズウィック監督だったので、期待していたのだが。デンゼルワシントンの演技が、秀逸。しかし、その他の役者の存在感が、いまいちだった。というか、脚本がうまくなかったような気が。
しかしながら、アメリカ合衆国憲法の歴史、太平洋戦争時の日系移民虐待行為(憲法違反として今なおアメリカで最大の歴史的恥部の一つ)などの背景の知識を持ってみると、淡い。事実としてCIAや政府が独走して、国際法を簡単に踏むにじり、他国の元首であるノリエガ将軍を逮捕したことは、有名ですね。また社会学者の宮台さんが、何度か指摘しているが、これは公安問題(パブリックセキュリティ)の問題を扱っている。国家の治安(現体制の維持)を守るための軍事力が、結局のところの市民社会や国家を支える憲法や法のシステムを崩壊させかねないということですね。アメリカ社会のCIA、FBI、軍、政府などの組織がそれぞれどの理念や現実を背景に行動しているかを考えながら見ると、その緊張感はなかなかのものがあります。憲法や市民社会の自由の問題は、極めて抽象的なので、知らない人は、何を悩んでいるのか意味不明かもしれませんが。
とはいえ、これはアメリカからの視点でありアメリカの国内問題だけを扱っている視線を感じる。真の意味でのアラブ世界やアラブ系という他者は、感じられない。どうもアラブ人やパレスチナ人が理解不能に描かれすぎている気がするなぁ。でも、サイードのいうオリエンタリズムってそんなものかもしれないですねぇ。