ナイトの真髄 サー・イアン・マッケランを見よ!
死体が出てくるからスリラーなのではない。老いた天才の中に潜む、刺激的な個性に驚愕し、畏怖するのだ。彼は大いなる欲望と情熱を秘めた、ゲイの芸術家で、己の異質性を恐れない。むしろ、ありきたりで退屈なことが大嫌いなのだ。
映画でも実生活でもお目に掛かった事のない、およそ“おじいさん”らしくない人。それは、私達にとってモンスター。けれど、映画監督として、世界を創造するゴッドでもある。その上、ウィットに富み、道理をわきまえたイギリス紳士。そして、貧しく悲惨な過去のトラウマに苦しむ神経質な人間。面と向かった時、このうちの何が飛び出してくるのか、見当もつかない。
このように複雑で面白い人物を、サー・イアン・マッケランが怪演。今まで味わった事のない、恐怖の世界へ連れて行ってくれる。
けれども、メインテーマはそれではない。不思議なユーモアで綴った人間ドラマなのだ。彼のような男でも、やはり孤独で病んだ一介の老人。普段の生活は、家政婦のハンナに仕切らせている。長い年月を共にした二人は、家族同然。気の置けない会話や雰囲気は、見ているだけで楽しく心和む。そこへ、新しい庭師が招かれる。この若者と主人公が、三歩進んで二歩下がり、ゆっくりと本当の友情を築く様を描いた作品。終了後、爽やかな感慨が吹き抜けていく。
いづれ劣らぬ芸達者な俳優の演技と、最高の脚本。
斜に構えた批評家達が、大絶賛を送ったのも当然の出来栄え。しかしながら、クセが強いので、一般受けはしないだろう。百戦錬磨の映画ファンにお勧めしたい。
身の内に棲まうモンスター
ちゃんと映画を見たことがなくても、「フランケンシュタイン」「透明人間」というモンスターを知らない人はいないでしょう。
そんな映画を撮った監督の死を描いた作品。
私はこの監督のことは知りませんでしたが、過去を断ち切りたいと願いながら過去につきまとわれ、追いつめられていく姿は
なんだか胸が痛くなりました。元監督に反発しながらも、その生き方に興味を覚えていく庭師の青年もまた、過去に捕らわれている一人。
本当の「モンスター」っていったい何なのかな、と考えさせられる映画でした。
憐れで切なくて、それでいて最後になんだかほっとするような脚本は、アカデミー賞脚色賞を受賞したというのもうなずけます。